幸せな相乗効果が生まれてくる宿に
石見銀山群言堂グループ 本社
もともと伊藤家は、二階に按摩業をいとなむ伊藤さんというおばあさんが暮らしていました。一階は石見銀山生活観光研究所の親会社に当たる石見銀山群言堂グループの資材倉庫でした。
その後、伊藤さんが老人ホームに入居してからは手つかずのままの空き家に。いずれ朽ちていく空き家を放置しておくのは石見銀山の未来のためにならないと考え、このたび伊藤家を宿として蘇らせることにしました。
今回の古民家再生を主導した松場忠は、2019年に石見銀山生活観光研究所を設立。「地域には幸せな相乗効果が生まれてくる宿が必要だ」と語ります。
- 松場忠
- 1984年、佐賀県鹿島市出身。文化服装学院シューズデザイン科を卒業後、靴職人に。2012年に妻の実家である石見銀山生活文化研究所に入社。2019年より、株式会社石見銀山生活観光研究所を設立、2022年に株式会社石見銀山群言堂グループの代表に就任。伊藤家のほかに二棟の宿泊施設を運営している。
「アルベルゴ・ディフーゾという、地域に散らばっている空き家を活用し、建物単体ではなく地域一帯を点在型ホテルとするイタリア発祥の取り組みがあります。これから伊藤家は、他郷阿部家や山田家といった大森町に点在する宿のなかでも、地域への気軽な地域の玄関口としての役割を担います。これまでの石見銀山には、気軽に中長期滞在できる宿泊施設のキャパシティが少なかったんですね。伊藤家のような宿を増やしていけると石見銀山にいろんな関わりしろが生まれますよね。地域の外の人たちとの関わりしろを増やしていければ、おのずと幸せな相乗効果が生まれてくると考えています」
参考:【石見銀山・生活観光】暮らす宿・他郷阿部家|日本の美しい生活文化を語り継ぐ宿
快適で、すこしの遊び心のある住空間
伊藤家は、石見銀山群言堂グループで13軒目の古民家再生となります。
古民家再生にあたって「凝ったことをしているわけではないけれど、気を遣っているからこそ現れる品格を大事にしたい」と松場忠は話します。
「伊藤家で長期滞在していただいても困ることがないように、過不足なく生活用品が揃っていて、食器も意識して選んでいます。1週間から3週間の滞在期間で、山田家とおなじように保育園留学®で活用してもらえるように大きな冷蔵庫も完備させました。湿度の高い石見銀山で長く過ごしていただいた際にストレスを軽減できるように、壁には珪藻土、洗濯乾燥機も取り付けています。すごいものはなかなか作れないかもしれないけれど、残念だと思うポイントをなくすことはできると思うんです」
参考:【島根県・観光】石見銀山に泊まる|普段通りの自分で暮らすように過ごす。江戸末期の一棟貸し宿「山田家」
古民家改装のコンセプトは、ほどよく快適に過ごせることと、古民家ならではの遊び心。風呂場の岩壁を望む借景窓だけではなく、伊藤家には遊び心が散りばめられています。
例えばそれは、古い家の使われなくなったガラスを集めてつくられたパッチワークの建具。朝や夕暮れ時の光が差し込む頃は、光の美しさに目を奪われるはず。
風呂場や玄関に使われているタイルは、じつは隣町のタイル工場で、色ブレが大きくて廃材になったものです。
自分たちのペースで過ごしてほしい
これまで大森町では、町にある宿の特性上、中長期で滞在しづらかったと言えるかもしれません。伊藤家を宿として蘇らせることは、石見銀山での暮らす旅の選択肢が増えるということでもあります。
最後に、伊藤家を利用するお客様にどんなふうに過ごしてほしいか、松場忠に聞きました。
「大森町は、エンタメ性というかハレの文化が際立つ町ではないと思っています。いっぽうでこの町には暮らしがあって、ケの文化がある。日常の些細なことに感動していただくには少し時間が必要だと思うんです。
『ゆったり過ごせた』とか『のんびりできてよかった』とか『なんだか心地よかった』とか、宿泊するお客様が自分たちのペースで過ごせて、なんとなく行き届いていて快適で、不快な思いをしなかったということを大事にしたいなと。
一般的に旅行から帰ってきたら、どっと疲れることが多いと思います。伊藤家で過ごしたら、少し元気になってもらって帰っていただく。そういう生活観光をしていただきたいですね」