「山田家」大森の集落に佇む、
江戸末期の建物を改修した一棟貸し宿
その昔、石見銀山で採れた銀を大森の町の外に運び出すため、多くのひとが行き交って賑わっていたメインロード「石見銀山街道」。別名「銀の道」から、脇道に入った道沿いに、一棟貸し宿「山田家」は静かに佇む。
多くの人が玄関から入らない、不思議なお宿
【1階・土間】
玄関から入ると、まず土間が迎えてくれる。いつも新しい風と、内側からの風が混ざる場所。
※お泊まりの際の日常的な出入りは裏の勝手口からおこないます。
【1階・台所/ダイニング】
天窓からの光が入る、明るい台所/ダイニング
土間からでも玄関からでも、入るとまず、台所とダイニングに出合うことになる。暮らしの中心には、いつも食卓がある、とでも言うように。
古民家再生に長年取り組んできた登美さんが、「山田家に合うものを」と集めてきたため、調理器具や島根の窯元の器などは選りすぐりのものが集っている。
ダイニングで、湯が沸く蒸気の気配を感じながら、1日何度も、ここで料理をしよう。食べることは生きること。その昔、登美さんが、「仕事だけじゃだめ。暮らしをしないとだめよ」と言っていたことを思い出しながら。
【1階・リビング】
台所/ダイニングの隣には、リビングが現れる。大きな、窓。何もせずとも、この窓を眺めながら、過ごしたい。そう思ってしまう光がそこにはある。
暖かな季節には窓を開け放って、大森では珍しいミモザやオリーブ、ユーカリの葉が揺れる音を聴きながら、縁側で過ごそうか。外には庭が広がり、その向こうには畑と「石見銀山公園」の敷地がある。四季折々の風が通り抜ける、空間。
またロッキングチェアは、山田家に鎮座するために生まれてきたのではなかろうか、と思わされてしまうほど、空間と調和する。ここに座って揺らされたら、私も大森の自然の営みのひとつの要素として、溶け込めたりできそうな。
リビングに並ぶ椅子は、元はえんじ色のビニール素材だったものを、アレックスさんの息子であり家具職人のハジメさんが丁寧に張り替えて山田家に似合うようにしつらえ直した。部屋のWi-Fiは、もちろんさくさく。気が向いたら、好きなだけ仕事もしよう。
【2階・寝室】
リビング奥の階段を上がった2階には、ワンルームをお手製の壁で区切ったベッドルームが2つある。手前の空間にベッドが2つ、奥の空間にまたベッドが2つ。合計4人まで泊まれる仕様。
山田家で眠る夜は、いや、夜じゃなくても昼寝でも。心穏やかで、今までになかったほど深いものになるだろう。
【1階・洗面所/風呂】
お風呂に入る。このことが、仕方なく行われる作業ではなく、1日の最大の楽しみになるような、そんな日々はどうだろう?
浴槽は、先述のアレックスさんが、かつて自身で作ったもの。それを、登美さんたちが丹精込めて磨き上げ、いまの形に収まった。
お風呂タイムは、木に全身の地肌が触れる。包まれる。四季の日差しを、窓越しに感じられる。ちょっぴりくらいなら、開け放ってもいいかもしれない。ここにも風が入ってくる。心にも、毎日にも。ほぐれる、温まる、ゼロに、戻れる。
暮らすために必要なものがここには在る。たとえばドライヤーに、乾燥機付きの洗濯機。
古民家暮らし、というものは、洗濯物を手洗いして、風で乾かすことなのかと想像していた時代が私にあることは、恥ずかしいので隠しておきたい。
テクノロジーの力と、紡がれてきた大森の暮らしを合わせて紡ぎ、継いでいくこと。それらは相反することじゃない。今はまだ実装できていないけれど、便座も温かくできるものに変えたいのよ、と登美さんは笑っていた。