自然豊かな暮らしの中では、里山の植物はとても身近な存在です。群言堂が暮らす石見銀山大森町だけでも植物はとても豊富で、昔から私たちの暮らしに彩りを添えてくれていました。籠いっぱいに摘んだよもぎは草餅に、山で拾った鬼胡桃はチーズと混ぜてパンに添え、可憐なくろもじの枝や花はお茶に。そして、植物たちから色を集めて衣服を染め、暮らしを味わい深いものにしていく。それが群言堂の「里山パレット」です。
その昔、衣を染める色は、植物をはじめ、土や鉱物などの自然から授かるもので、あらゆる染めには薬効が宿ると信じられていました。「里山パレット」はそんな原点を見つめながら、自然の色で着る人の心をうるおし、豊かにしていくような服でありたいと思っています。

花、実、枝、葉、根。植物はたくさんの色を、部位ごとに宿しています。しかも、芽を出し、花を咲かせたり、実をつけたり、次の季節まで休んだりしていく中で、その色たちも、さまざまに移ろっていくもの。また、それぞれの部位から染液を抽出する際の温度や時間なども、染め上がりを左右する要素になります。
そうして自然の植物と人の手わざが出会った時、植物は予想を超える美しさを私たちの前に見せてくれ、驚きや感動をもたらしてくれます。願わくは、植物から授かったこの色たちが、あなたに里山の空気を運んでくれますように。そしてあなたの暮らしに寄り添う、かけがえのない色になってくれたらと思うのです。

これまで群言堂が採取してきた100種ほどの植物と、抽出した色のそれぞれをご紹介しています。

里山や畑に入って草木や果実を集めるのは、植物採集担当の鈴木良拓の仕事。採集時期によっても、植物が内包する色素は刻々と変化し、染め上がりも大きく左右されます。これまでも植物を通じて季節の移ろいを感じてきた鈴木ですが、自身で農業に取り組み始めてからは（群言堂の活動のかたわら、近隣の不耕作地を借りてつくった「SUZUKI FARMS」で、自然農にいそしんでいる）、自然との関係性にさらに奥行きが増したとか。
採集した植物のうち、実は冷凍し、枝葉は乾燥させて保存。コツコツとたくわえを増やしていく楽しさ、うれしさは、保存食づくりにも似ています。とはいえ採りすぎは禁物。最近では入手がむずかしいものも少なくなく、また夏から秋にかけて熟す山野草の実は、野鳥たちにとってもごちそう。必要な量だけ採って大切に生かしています。

里山の植物たちを、人々がどういう風に暮らしに取り入れ、楽しんできたのかも含めてご紹介しています。

「里山パレット」は、植物に宿っている色を布に移しとることで、ひと言では表現できない複雑な色を表現できるのが大きな魅力ですが、群言堂では伝統的な草木染めとは違った「ボタニカルダイ」という染め方で、色のクスみがなく、変色や退色への耐性も高めています（草木染めは、重金属による媒染剤で植物の色素を布に定着させていますが、「ボタニカルダイ」では天然由来の糊を使うことで植物からもらった色をそのまま布に乗せることができ、少しの化学染料を加えることとも相まって、日光・洗濯・汗・摩擦などによる変色・退色を起きにくくすることができます）。
この染め方で「里山パレット」は、その日の天気、時間、場所、さらには見る人によっても印象が変わる多彩な色のゆらぎを大切にしながら、現代の暮らしが求める機能と両立させています。ただ、光に長時間さらしたり、汗をかいたままにすると早い変色の原因にもなりますのでご注意ください。また、やはり長年のうちに色合いは変化していきますが、それもまた楽しみのひとつとして、長く着続けていただければと思います。

「里山パレット」の誕生は、2014年。群言堂が創業時から考えていた「町の自然資源を使ったものづくりがしたい」という思いからのことです。群言堂には自然を暮らしに取り入れようと考える風土があり、そうした企画やデザインを進める力が集まって、幅広い人の暮らしに寄り添う服がシリーズ化されることになりました。
このような流れは、群言堂にとって特别なものではありません。例えば「里山パレット」の後に生み出された「里茶」たちもそうですし、町に咲き誇る梅の花から抽出した「梅花酵母」からスキンケアブランドの「MeDu（めづ）」が、さらにパンやビールなどの食品たちが生まれています。このように群言堂は、日々の暮らしをより楽しく、こころ豊かにしてくれる自然を大切に、石見銀山 大森町を拠点にさまざまな提案を続けていきます。