旬の味覚を味わうとき、見えてくる風景がある——。この里山の風土に息づく味な物語を訪ねるシリーズ第2回目は、葉わさび。他郷阿部家料理人・小野寺拓郎が「シンプルなのに奥が深い」と語る「葉わさびの醤油漬け」のこと。そして全国でも珍しい在来種のわさびが育つ農園のこと。知られざる島根名物のストーリーをお届けします。
旬の味覚を味わうとき、見えてくる風景がある——。この里山の風土に息づく味な物語を訪ねるシリーズ第2回目は、葉わさび。他郷阿部家料理人・小野寺拓郎が「シンプルなのに奥が深い」と語る「葉わさびの醤油漬け」のこと。そして全国でも珍しい在来種のわさびが育つ農園のこと。知られざる島根名物のストーリーをお届けします。
1瓶150g / 税込 880円 送料別
全国でも珍しい在来種を使った「葉わさび漬け」は、「醤油」「酢」「味噌」の3種。
かじか農園さんより冷凍クール便で直送します(通年ご注文可能です)。
1kg / 税込1,500円 送料別
全国でも珍しい在来種の葉わさびを味わってみませんか。段ボール箱に詰めた状態で、かじか農園さんより通常発送でお届けします(販売期間は3月中のみ)。
お名前、ご住所、お電話番号、ご希望の商品名(醤油漬けの場合は、醤油/酢/味噌のいずれかもご指定ください)と個数を明記のうえ、かじか農園さんへ直接ファックス(FAX.0854-82-3581)にてご注文ください。 ファックスをお持ちでない方は、お電話(TEL.080-1949-3367)でも注文可能です。
かつて島根は「東の静岡、西の島根」と呼ばれたほどの、わさびの産地でした。現在は出荷量こそ激減していますが、群言堂の近くでは、今なお山中を歩けば自生しているわさびが見つかります。「葉わさびの醤油漬け」はそんなわさび産地の文化を感じさせるもののひとつ。こちらでは春になると、各家庭がこぞって「わが家の味」をつくるのが習わしです。
他郷阿部家料理人・小野寺(以下小野寺)
「僕は静岡出身なんですが、醤油漬けはこっちに来て初めて知りました。家庭ごとにつくり方も味わいもちょっとずつ違っていて面白いんですよね。つくる時期は3月から4月ぐらい、新葉が出てから花が咲くまでの間が、葉も茎もやわらかくておいしいです」
わさびの葉や茎をかじると、蕎麦や刺身の薬味としておなじみのすりおろしわさびと同様に、鮮烈な香りとピリッとした辛味、ほんのりした甘みが感じられます。その野趣あふれる風味を生かした醤油漬けに、料理人としての好奇心を刺激された小野寺。これまでに数えきれないほどの試作を重ねてきたといいます。
小野寺
「わさびを摘んだら、茎も葉も刻んで下処理をして、合わせ調味料に漬けるだけ。でもシンプルなようでいて、こんなに奥の深い食べ物もないなと思いますね。下処理も、熱湯をかけるやり方とか砂糖で揉むやり方とか、いろいろ試してみたんですけど、僕が最終的に落ち着いたのは、生のまま塩で揉む方法。これが辛味もしっかり出てうまいな、と。揉んでると辛味成分や香りが立ちのぼってきて、目に沁みるのでけっこう大変な作業なんです。涙を流しながらやっていますよ(笑)」
いつから言われ出したものか、町では「葉わさび漬けは、腹を立てている人がつくるとうまくなる」という冗談がおなじみ。「“あいつめ!”と怒りに任せて揉むから、辛味がよく出る」と言うのがその理由だそうですが、さて真偽のほどはいかに?
わさびの葉や茎(根も小さいものなら一緒に)を刻んで塩揉みしたら、煮切ったみりんと酒に、薄口醤油と酢を合わせたタレに漬け込むのが小野寺流。「次の日には食べごろになります。白いご飯にのっけたり、お茶漬けの具にするのが王道ですが、チーズとからめればお酒のつまみになりますし、自家製タルタルソースに入れてもうまいですよ」
小野寺が町の先輩たちに教わったところによると、昔は石見銀山界隈にもわさびを育てる棚田が点々とあったとのこと。その伝統を受け継ぐ在来種わさびの棚田が、大田市内の三瓶山(さんべさん)にあると聞き、見学に伺ってみることにしました。
群言堂の本店から車を走らせること約30分。三瓶山で私たちを迎えてくれたのは「かじか農園」の景山悟至(さとし)さん。美容院経営という本業のかたわら、在来種のわさびを守ることに情熱を傾けてきた73歳です。
景山さん
「在来種のわさびは交配種と違って成長が遅いんです。交配種の芋(芋:わさびの根茎のことを指す俗称)は1年半ほどで収穫できるけども、在来種は3年ぐらいかかります。それでもあまり大きくならないんだけども、香りは断然いいし、辛味も強いですよ」
景山さんの案内で山に入っていくと、山の斜面に沿って石積みでつくられた棚田が広がり、澄んだ湧き水が小気味よい音を立てながらキラキラと流れています。頭上高く茂った落葉樹からは木漏れ日が降り注ぎ、その美しい眺めに思わずため息が漏れます。
取材時は秋だったため、まだ地上部分がまばらですが、春になると茎や葉が膝丈ぐらいまで伸びて一面覆い尽くすそう。農薬も化学肥料一切使わず自然のままに育てています。
景山さん
「わさびはあまり日光を必要としないんでね、この落葉樹が天然の日除けになってくれるんです。もうひとつ畳方式(棚田のことを指す俗称)のいいところはね、湧き水が段々を流れ落ちる時に、新鮮な酸素をたっぷり含むんですよ。それがわさびの根にすごくいい。昔の日本人はそういう道理をちゃんとわかってたんですね」
三瓶山の伏流水は、ミネラルをたっぷり含んで硬度高め。この水質もわさびの成長を助ける力です。
そもそも景山さんがこの棚田と出会ったのは、美容院のお客さんとの会話がきっかけでした。
景山さん
「ここの前の持ち主さんが高齢で入院しとられて、誰か棚田を守ってくれる人はおらんか、って言うとられる、という話を聞いたんです。僕も農業には興味はあったけども、やりたかったのは果樹だったんで、当時はわさびと言われても興味もなくてね(笑)」
棚田のそばの土手に自生しているわさびは畑わさび(はたわさび)と呼ばれ、根茎はあまり大きくなりませんが葉や茎に宿る鮮烈な香りやピリッとした辛味は、醤油漬けにうってつけです。
それでもとにかく一度現場を見に来てほしい、と持ち主のご子息にも熱望され、初めて棚田に足を踏み入れたのが2000年ごろ。手入れする人を失った棚田は荒れ放題のジャングル状態で、「こんなもん、一体どうすれば……」と思わず言葉を失ったといいます。それでも不思議な縁を感じて「ここを守らなければ」という思いを抱いた景山さん。棚田を譲り受けることに決め、たったひとりで棚田の復旧作業に取りかかります。邪魔な倒木や石をどけ、草を刈り、崩れた石積みを直し、復旧だけでも3年の月日を要する大仕事でした。
今も残る古い石積みは、昭和初期に専門職人の手で組まれたもの。城の城壁のように精巧に組まれており「僕も見よう見まねでやってみたけど、とても同じようにはできません」と景山さん。
景山
「上から順に復旧作業をしていくんだけども、下を見ちゃうと荒れ果てた景色がずーっと広がってるから、そっちは見ないように背を向けて(笑)。とにかく目の前をきれいにすることだけに集中して、畳一枚ずつ進んでいくという繰り返しでした」
こうして棚田を蘇らせ、わさび栽培を再開。最初は交配種の苗を買って育てていましたが、徐々に「この地域特有のものを守りたい」との思いが芽生え、自家採種と自家育苗による在来種栽培に舵を切ったのでした。
種や苗の選別をしっかり行って生命力の強いものだけを残し、大きな根茎を育てるのが栽培者の腕の見せどころ。採ったばかりの根茎を湧き水で洗ってかじると、爽やかな刺激の中にほんのり甘みが感じられます。
縁あって託された棚田を守り続けて、すでに23年になる景山さん。今も毎朝、夜明けとともに山に入り、1時間半ほどかけて棚田を見て回るといいます。足腰の強さも表情の若々しさも驚くほどで、70歳を過ぎているとはとても思えません。
景山さん
「20年あっという間でしたからね。まだまだ試したいこともあるし、20年じゃ時間が全然足りないです。でも最近ちょっと考えが変わってきたのはね、7年前に娘家族が移住してきて、娘婿が手伝ってくれるようになったんですよ。
あとはもうひとりIターンの若い人もいるしね。若い世代が来てくれたおかげで、僕の代だけでやり遂げにゃならんという焦りがなくなった。僕の代でできる限りのことをやって、また次の代に託そうという気持ちに変わったんですよ。
だから今はとにかく前だけ見て、体が動くまでは続けようと。終わりは決めずに、倒れるまで。“ああ、もっとやりたかったなあ”と言いながら死ねたら本望かな。そうやって前向きにやってると、また周りにそういう方が集まってくれるんですよ。次から次へと出会いがあって、いろんなことを勉強させてもらって、これほどありがたい人生はないなって。まあ幸せですよ」
山の澄んだ空気の中で、楽しそうに語る景山さんの表情を見ていると、なんだかこちらの心まで洗われていくような思いがします。深い山と木々と湧き水。日本の原風景そのものの自然の中で、ひっそりと育つ在来種わさびは、まさに土地の宝。そう思うと、春の葉わさび漬けも一層味わい深く、心に沁みてきそうです。
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全国でも珍しい在来種を使った「葉わさび漬け」は、「醤油」「酢」「味噌」の3種。
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全国でも珍しい在来種の葉わさびを味わってみませんか。段ボール箱に詰めた状態で、かじか農園さんより通常発送でお届けします(販売期間は3月中のみ)。
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