第十二話 十和田湖での暮らしを考える|十和田湖畔の喫茶店から 中野和香奈

季節の変わり目で風が強い十和田湖です。「今日は深い青でいい色ね〜」(英子ママ)

こんにちは。今年の十和田湖は芽吹きが2週間ほど早く、GW前の4月末だというのにすでにヤマザクラが咲き始めました。(通常はGW明けぐらい)

いよいよ本連載、中野担当分は最終回を迎えます。今回は連載第3話7話で登場した十和田湖の仲間4人(小林徹平、小林恵里、安藤巖乙、中野和香奈)の座談会をお届けします。実は先日、このメンバーで北海道へ視察に行ったのですが、座談会はその帰りの道中、車の中で行われたもの。どんな話になったかというと・・・最終回も英子ママからスタートです。

去年採ったヤマブドウを冷蔵庫に眠らせていたのを昨日気づいた英子ママはすぐさまジュースに。出来立てをいただきました。

英子:みんなで洞爺湖行ってきたんだって?

中野:うん。国立公園で、湖の大きさも十和田湖と同じくらいでしょ? みんな前から気になってて。yamajuみたいなゲストハウスもあって、そこに3連泊したんだよ。洞爺湖が目の前で、すごい素敵だった〜

英子:あら、いいわね。

中野:すごくいいまちだったけどさ、やっぱり私たちは十和田湖がいいね、って帰ってきたよ。

英子:それを確認しに行ってきたのね。

はじめて訪れる洞爺湖はずっと黄砂で霞み、強風の日が続いたけれど最終日は穏やかな表情を見せてくれました。

中野:洞爺湖の旅(視察)を終えてみての、みんなの率直な感想を教えてください。

安藤:よかった。すごいよかったよね。

恵里:いいところだった。

安藤:サイズとかは十和田湖と近いんだけど、いろいろ違いがあったね。洞爺湖はやっぱり暮らしがある感じがすごく伝わってきたし、今回の滞在でそういう体験ができたなと思う。まちの景色や、子どもが当たり前にいる日常とか・・・

恵里:いろんな選択肢があるというのはいいよね。個人店で行ってみたいと思えるお店があるってすごいことだし、まち歩きも楽しい。この規模の温泉地があることも強みだよね。十和田湖にもいくつか温泉を引いている施設はあるけど。

中野:そうだね。私はみんなでこっちの山を歩いてみて、あらためて十和田湖の自然の純度の高さというか、森の違いを感じたかな。訪れる前は単純に十和田湖と同じ国立公園ってだけのイメージだったけど、それぞれ全然違うんだと感じた。

徹平:洞爺湖は20〜30年に一度噴火があるし、その度に森がリセットされるしね。

恵里:十和田湖は本当に森が深くて豊かなんだって思うよね。

徹平:3年ぐらい前かな・・・春にみんなで自籠岩(じごもりいわ/修験者たちが修行したといわれる十和田湖畔の森にある大きな岩)から十和田神社の裏に出るルートを歩いたよね。今回有珠山(支笏洞爺国立公園内の活火山)をトレッキングしてみて、あれぐらい歩ける道をちゃんと用意したいなって思った。

恵里:うんうん。

洞爺湖にて。有珠山のトレッキングコース。海と湖に挟まれている山なのでどちらも眺められます。結構ハードな山登りでした・・・写真=小林徹平

十和田湖にて。3年前にみんなで歩いた自籠岩がある森。湖が見渡せる場所です。

徹平:十和田湖はトレッキングしながら、歴史や文化、自然の深さに触れられる。さらに水辺の森があるのがいいよね。洞爺湖は周りに山はいっぱいあるんだけど水辺に森がなかったんだよね。中島(洞爺湖の中心にある噴火活動よってできた島)を歩けていないから、それは心残りだけど。我々が住んでいる休屋地域と水辺の森の近さはやっぱりすごくいいよね。

中野:洞爺湖は湖が独立しているというか・・・十和田湖は森と湖が一体となっていて、そこにお邪魔してるような気になる。洞爺湖は開発が結構されている印象。もちろんそのおかげでアクセスが良かったりもするし、人が入りやすい地域になっている。

恵里:だから暮らしがある。メリットだし、まあやっぱりバランスなんだろうね。

強風の中立ち寄った支笏湖。十和田湖のヒメマス養魚は支笏湖から譲り受けた卵がはじまり。

安藤:洞爺湖の前に支笏湖に立ち寄ったよね。支笏湖の方が自然はすごく深いなって思ったけど、たぶん暮らす要素とか少ないんだろうなって感じた。十和田湖は洞爺湖と支笏湖のちょうど中間ぐらいの暮らしっていうか、まだ暮らしが入り込める余地がある。洞爺湖ほどではないと思うけどね。

中野:十和田湖は人が入りづらい場所だったし(信仰で)守られていたから、そこまでの暮らしがなかったんだろうなと思う。私たちは暮らしがほしいといつも言ってるけど、この純度の高い自然があったからこその今、なんだよね。だから暮らしがないのは仕方がないって言い方は違うけど、暮らしの在り方もしっかり考えたいなと思った。

第7話でも登場しましたが、実はみんなで大森町へも視察へ行ってます。

安藤:これは3年前に群言堂へ行ったとき松場忠さんに言われたんだけどね。「群言堂のある大森町は『51%の文化と49%の経済』、でも十和田湖は『99%の自然と1%の経済』でいいんじゃない?」って。すごく腑に落ちたんだよね。だから、自然をすごくリスペクトした上で暮らしをつくらないとね。たとえば、クラフト作家やアーティストが悪いわけじゃないけど、作家性の高いものが十和田湖にあって、それが自然とどう繋がっているのかがよくわかんないものだったら、本当に必要なのかなって思ったりもする。

恵里:単純に人が増えればいい、店が増えればいいということではないよね。

徹平:gla_glaさん(洞爺湖で製作するガラス作家)の作品とか見ていると、絶対インスピレーションを受けてんだろうなっていう感覚が残ったりするじゃない? 最初はそれがなくても、もしかすると時間の経過とともに、作品の感じが変わる、みたいなこともありそう。だからそこまでセンシティブに自然と離れすぎているとか、作家性が高すぎるとかは気にしなくてもいいかもね。この4、5年で我々自身も自然の見方が大きく変わっていると思うし。

恵里:日々学んでいるからね。

徹平:もし4年前に洞爺湖にきてて、有珠山のトレッキングをしたかって考えると、おそらく歩かなかったよね。何かそういうふうにね、少しずつ変わっていくことを受け止めていきたいって思う。

中野:そうだね。

今回宿泊したゲストハウス「チャシバクINN」のご家族と。おかげでより深い洞爺湖体験ができました。写真=小林徹平

徹平:いや〜でもやっぱ3泊してよかったね。

恵里:長期滞在はyamajuがずっと提案してるんだけど、ゲストはあっという間でしたって言って帰るの。いつも迎え入れて送り出していたけど、こっち側の感覚は全然わかってなかったんだと思う。初めて同じゲストハウスに3泊して、その気持ちが今は本当によくわかる。そうでしょうよって(笑)。そしてやっぱ足りないと思ったよ。カヌーもやりたかったね。

 

遊覧船から洞爺湖温泉を眺めるの図。

安藤:洞爺湖温泉街から直接繋がっている四十三(よそみ)山のトレイルも歩きたかったな。洞爺の温泉街はまちとしては連続しているんだけれども、やっぱ自然とまちのエリアが結構バッサリというか。自然との連続性があんまりないかなと思ったのと同時に、休屋だったらその連続性をつくれるなって思った。だからてっちゃんがさっき言っていた自籠岩の周回は、商店のある休屋から乙女の像(十和田湖の観光名所。高村光太郎の遺作)を通って行くにはすごく自然なルートだし、確かにいいよね。

徹平:それこそ石見銀山とかさ圧倒的に歩きやすいよね。あの感じはあの土地でゆっくりするには必要だと思う。国交省がウォーカブルシティって、心地良い歩行環境を作りましょうって取り組んでるんだけど、休屋もやらないといけないね。歩く場所全てが心地いい環境。

安藤:国交省はいわゆる賑わい創出のためのウォーカブルシティって触れ込みでやってるけど、賑わいが絶対に必要ではなくて、心地よさのためって考えたいよね。

恵里:心地よさを追求した先に賑わいがあるんだろうね。気持ちいいからそこを歩きたいって思うし、そうするとここでこういう商売やったらいいんじゃないか? とか、考えるようになるよね。

中野:ちょっと話はそれるかもしれないけど、いつもみんなは「十和田湖」を主語にして話をすることが多いよね。個人でこんな暮らしをしてみたいとかある?

後口さんが制作する熊。宿泊先のチャシバクINNの受付でも出会いました。写真=小林恵里

徹平:なんか彫りたい(笑)。訪れた店全てに後口民芸店(洞爺湖の温泉街にある民芸店)の後口さんが彫った熊が置いてあるあの感じを見ると、ああいうことやりたいなって思った。昔から彫刻好きだったし。後口さんのお店は冬季休業で行けなかったけどね。

中野:欲しかったよねー(笑)示し合わせてないのに、後口さんの作品が各店舗のお出迎えの熊になっているって、すごいよね。

徹平:まちの統一感も後口さんで生まれてるような気がした。

恵里:文化になってたよね。

中野:えりちゃんはどう?

洞爺湖の居酒屋は80代のお母さんがきりもりしているアットホームな空間。「ラーメンサラダ」が印象的でした。

恵里:今回あらためて、夕飯を外で食べるっていうのがすごくよかった。自分たちで作ってゲストをおもてなしするのももちろん楽しいんだけど、ちょっと今日は作りたくないってときに行けるのは精神的なよりどころになるしね。2日目に訪ねたゼロデイさん(洞爺湖温泉街にあるアウトドアショップ)に聞いた串焼きのお店も最高だったよね。おじいさんおばあさんが夫婦で作り上げていて、そこに地元の常連客がいるってだけでもう文化。

中野:十和田湖だと夜の店は皆無だもんね。

恵里:純粋にああいう場が楽しいし、美味しい!

安藤:美味しいものを食べられる暮らしならいいよね。

恵里:そこに尽きるよね。

自籠岩から見る十和田湖の休屋地区。純度の高い自然に囲まれた暮らし。

安藤:でもさ、僕らは十和田湖(人口)全体の350分の1だし、休屋・休平(4人が住む隣り合った二つの地域。休屋は青森県、休平は秋田県)でいえばほぼ200分の1みたいな存在になっちゃってるからさ、まちづくりと暮らしはあんまり切り離せない。自分がもう十和田湖に必要なピースの一つだからね。だからって肩肘張ってばっかりじゃ苦しいし、なんかそんなときに自分をほぐせるのはこういう旅であったり外で美味しいものを食べたり、一緒に楽しむ仲間がいることだったりするよね。それがちゃんとあれば、あとはもう歯車の一つとして頑張るしかないんじゃないかな。

中野:安藤さんらしいね〜

徹平:あと、お茶もやりたいなー。野点でもいいんだけど。純度の高い自然に身を浸すときの一つの手段として、コーヒーよりもお茶の方が五感使うような気がする。

中野:確かに自然にプラスして、もう少し違ったベクトルの手段あってもいいね。それをトレッキングと一緒にすることでそれぞれがより深い体験になりそうだね。

徹平:国立公園だからできないけど、クロモジの枝をポキっと折って煮出して飲むとかね。

安藤:自然の純度みたいな話に戻るけどさ、支笏湖も洞爺湖もニジマスいたし、洞爺湖はウチダザリガニもいたよね。十和田湖ってそういう意味での外来種が少ない。北海道はどうしてもエゾシカの被害があるし。十和田湖は本当に純度が高いんだと思う一方で、外来種対策はやっぱり官民連携でやっていかなきゃいけないとも感じた。そこが大切だということがまだまだ認識されてないけどね。環境省の仕事っていうよりも、ここに住んでる人たちがちゃんと意識を高めていかないと・・・外来種の問題が自然の純度に直結するからね。つまりは観光の成果に直結するっていう考え方をもうちょっと普及させたい。

恵里:守りながら暮らすってことだね。

安藤:守らないとね。そもそも暮らしや経済活動の根幹が「自然」である十和田湖においては特にさ。

十和田湖は山手線内回りほどの面積。唯一全体像を見ることができる御鼻部山展望台から。

一年を通して、私なりに十和田湖での暮らしをお届けしてきましたが、幸いにもここでの暮らしを一緒に楽しみ、育てようとしてくれる頼もしい仲間に恵まれているからこそ、この連載が続けられたのだと感じています。

連載は終了しますが、十和田湖での暮らしはこれからもまだまだ続きます。

飲んで食べて、遊んでるだけの(仕事もしますが)平凡な日々です。特別なことをしているわけではありません。(仲間は非凡な人間が多いのですが笑)もしここの暮らしが特別に見えるならば、それはやっぱり十和田湖があるから・・・それ以上でもそれ以下でもないのです。私は、十和田湖に生かされている生き物です。

読者に届けるために文章を綴っていたつもりでしたが、結局は自分の暮らしを見直すための連載になっていたかもしれません。期待されたものをお届けできた自信は全くないのですが、私にとってはとても良い機会をいただけたと思っています。ありがとうございました。


筆者プロフィール

中野和香奈

なかの・わかな

編集者/インテリアコーディネーター。住宅会社のインテリアコーディネーターを4年勤めた後、北欧雑貨・家具をメインに扱うインテリアショップへ転職。店長、バイヤーを経験。2014年から雑誌編集の世界へ。雑誌『Discover Japan』の編集を経験し、現在は十和田サウナを運営する合同会社ネイチャーセンス研究所所長のかたわら、編集・執筆、インテリアコーディネートの業務も行う。

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