第十話 雪国のジョセ(除雪)コミュニケーション|十和田湖畔の喫茶店から 中野和香奈

今年の冬は1月時点で例年よりだいぶ積雪が少ない十和田湖ですが、美しい景色は相変わらず。

こんにちは。2023年も改めましてよろしくお願いします。

十和田湖にきて6度目の冬を迎えますが、今回は雪国の「除雪」について少しお話ししたいと思います。

ちなみに、雪国と聞くと自分とは無関係と思うかもしれませんが、実は日本の国土の51%は豪雪地帯。人が住む住まないは別として、半分以上が大雪に見舞われる地域なのです。(ちなみに豪雪地帯の人口は全体の約15%ですが・・・)そんなことを念頭に置きながら、今日も喫茶憩いの英子ママと。

いつもいただいてばかりなのでたまにはこちらから。鹿肉のカレーをお裾分け。

中野:除雪って、大変だよね。去年までは大家さんが全部やってくれてたし、あんまり気にしていなかったけど、去年から持ち家になって色々考えさせられることがある。

英子:家から落ちた雪や、雪の捨て場に関してはご近所とトラブルにもなるからね。そういう話はよく聞くわよ。

除雪は冬を越すためには必要なことではありますが、生産性は皆無。ただ、誰かを迎え入れたり、整えるという観点でいくと、生産性はなくとも絶対に必要な仕事なのです。そして、特に一般家庭の除雪においては、相手を思いやる気持ちが本当に大切。

窓にかかる板は雪囲い。雪国の必須アイテムです。

今年購入した家は、西側に隣家が一軒、東側は空き地、北側の裏には川が流れています。目の前は2台分の駐車場と10畳程度の庭、私道を挟んで森が広がります。

私道は行政が手配する除雪車が入ってこないので、我が家は重機を持っている前大家さんへお願いしています。たまたまその大家さんの土地に隣接する場所に引越しをしたのがラッキーでした(もちろんお礼はしています)それ以外は基本的に自分たちで。庭や屋根から落ちた雪、お隣との間もそうです。

一晩で30センチは積もった翌日の朝、車の雪下ろしからスタート。エンジンをかけながら車を温めて10分程度の作業です。これは慣れてしまえばサクッとできます。

まず雪が降った翌朝、前大家さんが私道を整備してくれます。そのタイミングを見計らって、除雪が終わった道路に車を移動するのが朝の仕事です。

我が家の駐車スペースの雪をあっという間にさらってくれます。

このタイミングが合えば、駐車場も重機をかけてもらえるのでだいぶラクになるのです。庭は基本的に放置。だんだん積もって掃き出し窓の下部が雪で覆われて窓の役割が半減。本当は庭も毎日できるといいのですが、それはもう1日仕事で何もできなくなるので積もりっぱなしです。

除雪道具。左のダンプはプラ、アルミ、ステンレスと雪の固さで使い分けます。奥の細長いものは車の雪下ろしに使うスノーブラシ。

お隣との境も、毎日はできないので、休みにちょくちょく。敷地に雪の段差ができることもしばしばあります。(雪国は雪の逃げ場がなくなるため、隣家との境界に壁をあまり作りません)我が家のお隣さんは退職されていますが、毎日とても丁寧に除雪をされています。

除雪した雪を捨てる場所は裏の川。川も捨てすぎると固まって流れなくなるので川に降りてほぐす作業も必要です。

左が我が家。雪が残って高いところで段差は50㎝ほど。これをダンプですくって川に捨てる作業を行ったり来たりとひたすら繰り返すのですが、めちゃくちゃ上半身と腰がきたえられます。この状態から雪を綺麗にならすまではノンストップで約1時間でしょうか。翌日の筋肉痛は決定。私たちの間ではジョセササイズと呼んでいます。

雪捨て場になる裏の川。このままでは凍って雪で覆われてしまうので、流れなくなり次に雪が捨てられません。岸についた雪は崩して川へ投げ、それをスコップで砕くのですが大体この量で1時間ほど。長靴で降りるので滑らないよう足元にもだいぶ気をつかいます。

川に隣接する家は大体がそこに雪を捨てるので、みんなの雪捨て場ということです。

最初は除雪のルールがわからないので、色々教えてもらいました。自分の都合で暇なときに除雪をすればいいかなとも思うのですが、最近は考えがちょっと変わってきました。きっちりやりたいお隣と、ダラダラやっている我が家では、お隣がいい気持ちがしないだろうと思うようになったのです。積もった雪はお隣の敷地にも溢れることがあります。放置した雪をみて、お隣はいつ溢れてくるか、心配しているかなとも思うのです。特に除雪が丁寧な方なので、そこに合わせる方がきっと気持ちがいいだろうと。

そう気持ちを切り替えて、なるべく境界もきれいにと心がけていると、ある日うちの庭の雪をお隣さんが機械で飛ばしてくれるといいます。

60cmは積もった庭の雪を吹き飛ばしてくれるお隣さん。

おかげで景色は開け、見通しが良くなりました。

また別日には、東側の空き地に積もった雪の中に、うちの裏側へと向けて一筋の道ができていたことも。これはご近所さんが留守中に作ってくれたと後から知りました。(これまた些細なお礼を)おかげで裏へのアプローチがスムーズになったのです。

だんだんに、ただお礼をするだけでは解決にならないなと感じたのです。自宅もきっちり除雪してこそ、この豪雪地帯での暮らしを全うするということなのでは?

屋根の雪もおちたら除雪です。

人それぞれの価値観で、押し付け合うことではないとは思いつつ、ご近所同士が気持ちよく暮らすために相手を思いやると、自分の行動が明らかに変わったことに気付きます。そして、除雪を始めると、もっとキレイにと除雪レベルを上げたいという欲も沸々と・・・

自分が気にしないから、人に迷惑をかけなければいい、というのはちょっと通じないのがこの雪国での暮らしなのだと思います。

私の車は二輪駆動車で、雪道には向かないとよく言われます。以前、冬山でスタックし、5時間くらい立ち往生したこともありますが、ロードサービスが手配するレッカー車を待つ間、通りすがりの車4台に声をかけてもらったことがあります。みんな一緒になんとかしようと考えてくれるのです。本当にありがたいことです。それ以降は自分も雪道でハザードをつけている車には声をかけるようになりました。

雪国に住むと、一人では絶対に生きることができないと感じる出来事が本当に多いのです。どこの地域でもコミュニケーションの方法は色々あると思いますが、この除雪に対する気付きは豪雪地帯・十和田湖で暮らすための糧になるであろうと実感したのです。

ジョセコミュニケーションの大切さを痛感する6度目の冬なのでした。


筆者プロフィール

中野和香奈

なかの・わかな

編集者/インテリアコーディネーター。住宅会社のインテリアコーディネーターを4年勤めた後、北欧雑貨・家具をメインに扱うインテリアショップへ転職。店長、バイヤーを経験。2014年から雑誌編集の世界へ。雑誌『Discover Japan』の編集を経験し、現在は十和田サウナを運営する合同会社ネイチャーセンス研究所所長のかたわら、編集・執筆、インテリアコーディネートの業務も行う。

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