こんにちは。中野です。今日は喫茶憩いの店主英子さんが朝からミズのコブを採りに行くと聞いていたので、あわよくばもらえないかとおじゃました次第。
英子:今日はまだ早くてあんまり採れなかったの。わかちゃんはミズのコブどうやって食べるの?
今日も喫茶憩いから、夕焼け美しい十和田湖をどうぞ
こんにちは。中野です。今日は喫茶憩いの店主英子さんが朝からミズのコブを採りに行くと聞いていたので、あわよくばもらえないかとおじゃました次第。
英子:今日はまだ早くてあんまり採れなかったの。わかちゃんはミズのコブどうやって食べるの?
これがミズのコブ
中野:(残念)豚肉と炒めたり、味噌汁に入れるかな。歯応えとさりげないとろみがクセになるよね。
コブとはミズの茎が肥大化した肉茎のこと。夏は茎の部分をいただき、秋になるとコブが出てくるので、それを採って食べるのが十和田湖の地元民では習慣になっています。
そんな十和田の小さな営みをもっと発信して、観光コンテンツにできないか、など日々十和田湖の観光について考えている人がいます。
今日話を聞くのは、私自身の編集の先輩、そして十和田湖先輩である安藤巖乙(いわお)さん。編集者時代に国立公園満喫プロジェクトの人員募集をみて応募。ここ十和田湖が属する「十和田八幡平国立公園」を希望したそうです。念願かなって環境省の職員として5年勤めた後、地域DMO(観光地域づくり法人)である一般社団法人十和田奥入瀬観光機構へ転職。十和田の地域づくりに尽力する毎日を送っています。
今までは十和田湖の魅力ある個人の取り組みを紹介してきましたが、安藤さんへのお題は「十和田湖の観光」。ちょっと大きく語っていただきましょう。
これが安藤巖乙さん。ブナの木にまたがって嬉しそう
中野:十和田湖は、観光地としての側面が大きいと思うけど、安藤さんが考える十和田湖の観光ってなんだろう?
安藤:今、観光っていう定義が大きく揺らいでる時期だと思うんだけど。もともと十和田湖は霊山で、参詣される地(別の回で紹介します)だったでしょ? それが景勝地観光っていうものが発展するに従って変わっていった。なぜかっていうと、19世紀に発明された写真が20世紀になって普及したことが大きいよね。日本中、美しい景色の写真が撮られて公開される。それが流通して、その景色をひと目見たいと人が動くのは当然だった。
十和田湖の場合、文人・大町桂月(明治時代、初めて十和田湖を訪れた際の印象を「山は富士 湖水は十和田 広い世界にひとつずつ」と雑誌『太陽』に紀行文を残しその美しさを絶賛した)の文章も有名だけど、写真も一緒に発信されて、景勝地観光の目的地となってきたよね。それが今は、情報は写真だけじゃなくなってきた。目に見えないものに感動する時代なんだと思う。例えば「グランドキャニオン」、行ったことなくても、どんな風景かは知っているよね。それだけ写真含めて情報が出回っている。見に行きたいっていうだけのモチベーションでは人が動かなくなっているんじゃないのかな。
中野:土地の奥、見えないもの、さらに踏み込めば、異質な情報によって自分が変わる経験をしたい、触れたいって思う人が増えてきたよね。
安藤:「見る」、「聞く」だけでは満たされない。ニーズの変化だよね。言い換えると他の土地を訪れて、その土地のもつ本質に触れて、学びたいという欲求になっている。オンラインでは学べない、体験しないとわからないもの。
中野:じゃあニーズが変化する中で、観光地っていうのはどう変化していくのかな?
安藤:その土地の本質を価値として守って伝えていくことをしないと、マッチングができないよね。まずは地域に住む人が価値を再認識しないといけない。たとえば大森町だったら「住民憲章」で明文化されている。
中野:確かにそうだね。わかりやすい。2年前、みんなで大森町を訪れて色々学んだよね。
じゃあ安藤さんは、十和田湖には今何が求められていると思う?
10月末の十和田湖。雲に覆われて神秘的
安藤:十和田湖には、国立公園や文化財といった制度によって守られてきた圧倒的な自然がある。自然そのものの価値を伝えている、カヌーやサウナっていうのは時代にあってるんじゃない? 十和田湖ならではの自然を五感で味わい、学べるアクティビティだと思う。
中野:そうだよね。湖に入って自然の奥深さを味わえる最高のアクティビティだよね。
安藤:こういう場所だから自然を味わうために、長期滞在ができればいいよね。yamaju(第3回)がもう小さくはじめていることだけど。カヌーはじめネイチャーガイド集団の十和田湖ガイドハウス櫂や、十和田サウナを運営するネイチャーセンス研究所含めて、小さくても本質的な価値を伝える事業者が十和田湖に増えてきたのはいいことだよね。
中野:そうだね。明らかに変化はしているよね。でも、価値を伝えるだけでは事業として成立するかはわからない。観光地の事業者としてどうしたら持続していくかな?
安藤:今は事業者一社の持続可能性だけじゃなく、地域全体の持続可能性を考える時だと思う。広い意味での「観光業」が必要。
中野:「観光業」って?
安藤:観光業というと、宿泊、運輸、飲食、体験サービスといった、旅行するときに関わる業種が思い浮かぶと思う。でも、例えば旅館やホテルだったら、、リネンや食材の仕入れ先、農業などの一次産業、建物を建てるときには建設事業者も関わるよね。つまり、旅館やホテルが窓口となって、利益を他業種に分配している。その裾野まで含めた共益的な事業が「観光業」ということ。だから、観光業に関わっている人みんなが土地の価値をわかっている状態が望ましいし、住んでいる人がその地域を誇りに思っていればいるほど、その地域が魅力的に映る。
中野:そうだね。十和田湖のみんなで研修旅行で行った大森町みたいにね。
安藤さんは、環境省に5年勤めて、現在はDMO勤務でしょ? だいぶ立場が変わったけど、それぞれどういうことしてたのかな?
「蔦沼」の紅葉は、朝陽を浴びる瞬間が最高に美しく、毎年多くの人で賑うが、混雑することによって価値が毀損されているのも事実。
こちらが対策前の様子。安藤さんは環境省時代、早朝の蔦沼に予約制を導入し、混雑緩和による価値の回復を行ないました。
安藤:環境省では、国立公園の現場事務所で、国立公園内の価値を見つけて発信することをやってた。「守る」と「使う」両方で価値を伝えたいと思ってた。例えば「蔦沼」。早朝の赤くなる様子は、知る人ぞ知る景色だったけど、それが数年前からバズって、荒れちゃった。どうしたらいいかなと考えて、早朝は完全予約制による入場制限をして、ひとり4000円をとった。当然批判も出たけど、この景色に4000円の価値を感じている人だけ来るようになった。結果、環境を守りながら、経済的メリットも生めるようになった。
中野:じゃあDMOでは?
安藤:やることは本質的に変わらないと思っている。そこに今度は人や地域を巻き込むことが役割として出てきたかな。地元の会員事業者によって成り立っているのが一般社団法人である十和田奥入瀬観光機構だからね。そういう人たちと一緒にこの土地の本質的な価値を再発見し、守っていくことをDMOではやっている。
中野:十和田湖で具体的に動いてることって?
安藤:これまでイベントとしてしか夜間運行していなかった遊覧船に乗って月を見るということを定番化しようとしている。
中野:夜のイベントは宿泊も増えるよね。ちなみに「景色を見る」以外の体験としての価値はそこにあるの?
中秋の名月に実際に行われた十和田湖ナイトクルーズ
安藤:紅白歌合戦の第1回出場者で、唯一ご存命の方が十和田市出身で96歳の菅原都々子さん。代表曲の『月がとっても青いから』にちなんだプログラムが船上であったり、ちょっとした仕掛けがあるよ。
中野:安藤さんは、十和田湖で何がしたいの? そもそも、環境省に入所してから、もう6年目だよね? 考え方の変化含めて教えてください。
安藤:確かにここにきたときは、十和田湖ガイドハウス櫂もネイチャーセンス研究所もyamajuもなくて。でも、ここ5年でこの土地の価値に共感してくれる人が自然発生的に増えて事業を起こしてくれて、心強いよね。実は僕もゲストハウスやサウナ作りたいと思ってた時期もあったから。でもみんながやってくれてる(笑)。じゃあもっと魅力的な地域になるために、僕ができることは?・・・有機的なつながりを作ることかな。
中野:有機的?
安藤:ここに昔からいる人も新しく事業をはじめた人もお互いにリスペクトをもって新しい価値を作っていけるような、有機的なつながりが生まれるように仕組んでいきたい。
中野:具体的なプランはあるの?
安藤:この5年で、これだけ共感できる仲間が増えてきたわけだし、また仲間が増えてきたら新しい点を線で繋いでいくことができるよね。具体的にはもうちょっとかかるかも。
中野:それはなんでそう思い始めたんだろう?
安藤:群言堂に行ったからかなー
中野:ほうほう
十和田湖の一部のメンバーで他郷阿部家に宿泊。大吉さんや登美さんの話を聞きました。
安藤:大吉さんにまちづくりの話を聞いたときに、群言堂と中村ブレイス(大森町のもうひとつの大きな会社。義肢装具の製造を行っている)の代表ふたりが手をとって、一緒に市役所に対して話をしに行ったというのがあったでしょ。住民全員が濃淡の差こそあれ、大森町の価値を理解し、伝えようとしている姿に感銘を受けたんだよね。
中野:十和田湖の大吉さんになりたいってこと?
安藤:僕じゃないかもしれないけど、そういう存在は必要だよね。
中野:濁したね(笑)
※十和田湖のメンバーで群言堂を訪れた話は、また別の回で詳しく紹介したいと思います!
筆者プロフィール
中野和香奈
なかの・わかな
編集者/インテリアコーディネーター。住宅会社のインテリアコーディネーターを4年勤めた後、北欧雑貨・家具をメインに扱うインテリアショップへ転職。店長、バイヤーを経験。2014年から雑誌編集の世界へ。雑誌『Discover Japan』の編集を経験し、現在は十和田サウナを運営する合同会社ネイチャーセンス研究所所長のかたわら、編集・執筆、インテリアコーディネートの業務も行う。
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