こんにちは。全国的にはまだまだ暑い日が続いておりますが、8月に入ってから十和田湖の気温は20℃ちょっと。曇天の日も多く、少し肌寒いくらいです。
さて、いよいよ連載もおり返し第6回目。
いつも通り英子ママとおしゃべりしていたら、キヌさんがやってきました。おしゃべりの話題は先日、十和田湖住民へ先行でお披露目のあった「北奥のF"UNKASAI」(ほくおう の ぶんかさい)で見られるアート作品のこと。
8月は雨が続く十和田湖です。今日は雨降りですが、憩いのテラス席から十和田湖を眺めます。
こんにちは。全国的にはまだまだ暑い日が続いておりますが、8月に入ってから十和田湖の気温は20℃ちょっと。曇天の日も多く、少し肌寒いくらいです。
さて、いよいよ連載もおり返し第6回目。
いつも通り英子ママとおしゃべりしていたら、キヌさんがやってきました。おしゃべりの話題は先日、十和田湖住民へ先行でお披露目のあった「北奥のF"UNKASAI」(ほくおう の ぶんかさい)で見られるアート作品のこと。
英子ママとおしゃべりしていたらキヌさん(左)がご来店。キヌさんは十和田湖生まれ十和田湖育ち。ガイドなど、観光の仕事に携わってきた元気な85歳です。
英子:あれはびっくりだったね。感動だったわ〜。視点が全然違うわよね。目の前にある十和田湖がこんなふうに見えるなんてね。
キヌ:そうだよね。素敵だった。不思議だった。暮らしていても気が付かない。場所によって砂の表情が全然違うしたくさんの人に見せたいと思った。
北奥の F“UN KASAI初日は毎年恒例のとわだこマルシェからスタート。解体された観光ホテルの跡地を活用して開催されました。北東北はもちろん、関東からの出店も。のべ20店舗以上が集結。写真提供=yamaju
北奥のF"UNKASAIとは、先月、7月16日(土)から始まった十和田湖の休屋地区を中心に自然、アート、音楽、食を楽しむための小さな小さな文化祭です。連載第3回でも紹介した風景屋の2人が主催、主に小林恵里ちゃんが中心となって準備を進めてきました。私もコンセプトワークなど、編集として少しだけお手伝いをしています。
今回は、このイベントの主催でありプロデューサーの小林恵里ちゃんと、少しおしゃべりをしてみます。
中野:アートにここまで感動するのは初めてだったよ。
恵里:おお!
中野:今までも取材でいろんな地域の芸術祭は見ていて、アーティストにもインタビューさせてもらったんだけど、わかったつもりでいただけだったのかも。もちろん立場も違うんだけどね。
恵里:美術館だと、アーティストが作りたいものに対して学芸員が導びいていくと思うんだけど、私は専門家ではないし、すごくフラットな感じであきちゃん(アート作品をお願いした画家・中山晃子さん)にも接していたかな。いつも来るゲストと同じような感じ。なるべく恣意性が入らないように、彼女が純粋にここでインプットして、アウトプットできればいいと思ってた。
中野:確かに、えりちゃんはあきちゃんに対してもいつも通りだったよね。
恵里:あきちゃんは、モノや場所、人にとことん向き合ってくれた。それが得意なのか、自然体なのかはわからないんだけど。すごいなーと思って見てた。こっちがお膳立てするとかではなくて、彼女の力で彼女の表現が爆発したっていうか、噴火した(笑)
中野:FUNKA(噴火)をもじっての F"UNKASAI(文化祭)だからね。そもそも、この十和田湖でこういうイベントをやろうと思ったきっかけはあったのかな?
恵里:宮城県の石巻で「リボーンアート・フェスティバル」の立ち上げにかかわっていた時、私はすごく大きな組織の一人だったんだよね。すべてを地域の人と一緒につくる、体感するのはちょっと難しいと感じていて。規模が大きいが故にだとは思うけど。だからこそできることもあるから、それはもちろん素晴らしいことなんだよね。でも、もし個人的に何かやるなら小さいものを粛々と、とは思ってた。
中野:何で十和田湖だったんだろうね。
恵里:この十和田湖の休屋に拠点をもつようになって、地域の人みんなの顔が見えることが大きかったかもしれない。何をするにしても、具体的に誰かの顔が思い浮かぶよね。地域おこしの文脈ではなくても純粋に私がやりたいと思うことを応援してくれる人の顔も見えたし、この規模なら一緒に楽しんでくれそうだなと思えた。芸術祭が地域を盛り上げるための正解かと言われるとそうじゃない地域もあるけどね。でも中と外の人の接点をつくるというか、そういう意味では触媒の働きをしてくれるのがアートなんではないかな。現代アートは、わからなくていいともよく言われるよね。だから、アートみたいなわかりにくいものををみんなで共有するのもいいんじゃないかなと思って。
中野:恵里ちゃんが最初にこの文化祭をやりたいと言った時に、現代アートって十和田湖の住人に受け入れられるかなとちょっと不安だったんだけど、わからないことの共有っていいね。
イベントが始まる前に、地域住民対象にアートのお披露目会が行われました。みんなで十和田湖岸を歩き、あるものをひとつかみして会場へ向かいます。
恵里:音楽イベントみたいなわかりやすさはないけど、「なんか不思議」ていう状態も、わかりやすかった観光地ではおもしろいんじゃないかなーとは思っていて。
中野:確かに十和田湖ってめちゃくちゃわかりやすい観光地! 瀬戸内芸術祭とか、大地の芸術祭って、暮らしをアートで表現している印象があるけど、今回十和田湖は逆のアプローチな気がする。これまでの芸術祭の流れって、足元の宝物を表現しているケースが多かったけど。
恵里:価値の再発見だよね。
中野:十和田湖は暮らしが見えないとも言われるし、あのわかりやすく偉大な十和田湖を、あきちゃんがアーティストならではの視点、視座、視野をもって逆説的に表現してくれたことはすごくおもしろかった。さらに自分が暮らしてる場所でこういう体験ができたことが、本当にありがたい。地元の人もきっと嬉しいと思う。
恵里:観光で頑張ってきた人たちって本当に忙しかったと思う。休みもほぼなくて。「今日凪だからカヌーに乗りたい」なんて私たちが普通に楽しんでいることはできなかっただろうし。観光を生業にしているから、それをやめてまで遊べとは言わない。でももう少し、ここで暮らしている人たち自身も、もっと楽しんでほしいと思う。地域を楽しめている人が観光客をもてなす方がよりいい循環が生まれるんじゃないかなと思って
中野:確かに。心の循環含めてね。
中山晃子さんによるライブパフォーマンス。帽子をかぶっているのが最初にも登場したキヌさん。写真提供=yamaju
恵里:十和田湖で働く人たちが暮らしを楽しむ、その方法の一つがアートだったり、新しい食だったり。今までになかった機会を作り出して遊んでほしい。文化祭はいろんな人に参加してほしいけど、まずは地域の人に見てもらいたいかな。
中野:文化祭って、学校のみんなでつくって、みんなで楽しむってイメージだけど、まさに思い描くものにピッタリはまるよね。地元の人も遊べる場所っていうのがしっくりきた。
恵里:今年、どんな感じでどのくらいの人がきてくれるかはわからないけど、せっかく始めたから、少しずつ変化をさせながら継続していきたいと思ってる。
中野:うん。恵里ちゃんの言葉で言うと地味に地道にね。今回あきちゃんの作品によって、地元の人も何かしら受け取ったとは思うんだよね。巻き込むとかじゃなくて、自然とね。小さいけど、小さいからこそどこまでも深くできる思う。住んでいるとより感じる。でも、訪れてくれた人にもちゃんと伝えられるといいよね。
中山晃子さんが手がけた作品の一部です。そこには、全身で十和田湖を感じられる仕掛けがありました。
恵里:あきちゃんも産みの苦しみがあったと思う。いろんなことが重なって、ああいう結果を導き出してくれた。ある程度作品が完成したぐらいの時に、アーティストとしても今までやったことのない手法ができて、作家人生の道がひらけたと言ってくれたの。それは本当にSHIMABUKUさん(北奥の F"UNKASAIアート部門兼アーティスト。秋に作品公開予定)が呼んでくれたご縁なんだけどね。あきちゃんと十和田湖のパワーが相互に影響したような気がして、すごく嬉しかった。
中野:そう考えると、あきちゃんと十和田湖のマッチング成功だ(笑)。SHIMABUKUさんのおかげだね。アートを見て、十和田湖を見るっていう循環が生まれるといいよね。逆もしかり。外からの人も、地元の人も。私自身はこの地域にあるべきアートを見せてもらったと思っている。秋にはSHIMABUKUさんの作品もあるし、アート以外も北奥の F"UNKASAIとしてはまだまだ充実したコンテンツが控えているよね。
恵里:うん。夏に引き続きマルシェもあるし、北奥レストランもね。
中野:今後の展望はある?
恵里:アート作品としては毎年一人か二人にお願いするので充分だと思っている。そこの規模は変わらないかな。まだはっきりとは決まってないけど、来年は講談師の友達に十和田湖の話をつくって披露してもらいたいんだよね。
中野:いいね〜。十和田湖にくると何かが生まれるし、文化がある場所って思われるといいね。
恵里:うん。いつもと違う十和田湖を体感してもらえると思うから、ぜひ味わいにきてほしい。
中野:アートを通して十和田湖を見るって、カヌーやサウナを通してどう見えるか、ってことと似ているかもね。
恵里:そうだね。装置だよね。アーティストがつくる装置。
中野:手の届く範囲で、顔が見える人がかかわってくれて、文化祭ができてるっていう実感がすごくある。距離感とか規模感とかね。
子どもも大人も。地元の人も観光客も、みんなが楽しめる北奥の F“UN KASAIです。写真提供=yamaju
恵里:将来的には観光客の人も住民も、お互いお金のやり取りする相手ではなく、優しい目で、それぞれの背景にそれぞれの暮らしがあるということを想起できるような地域に近づいていけたらいんじゃないかなと個人的には思ってて。このF"UNKASAIがその第一歩かな。
筆者プロフィール
中野和香奈
なかの・わかな
編集者/インテリアコーディネーター。住宅会社のインテリアコーディネーターを4年勤めた後、北欧雑貨・家具をメインに扱うインテリアショップへ転職。店長、バイヤーを経験。2014年から雑誌編集の世界へ。雑誌『Discover Japan』の編集を経験し、現在は十和田サウナを運営する合同会社ネイチャーセンス研究所所長のかたわら、編集・執筆、インテリアコーディネートの業務も行う。
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