私が地域おこし協力隊になる前から関わっている活動の一つに「廃校の跡地活用」があります。
2016年3月に福住小学校が合併の為に閉校しました。閉校に伴い小学校の跡地活用検討委員会という地域の重役さんたちが30名程集まった会が発足され、私も関わることになりました。
きっかけは当時移住したばかりで木工制作ができる作業場を探していて、だったら小学校の教室を借りたらどうか、という検討委員会の会長をされていたSさんの勧めでした。
(この関わりがきっかけで後に福住地区の地域おこし協力隊にスカウトされることになります。)
まだ福住のこともよく知らず、田舎暮らし初心者だった私にとってこの会議は衝撃的で、多くの学びを得ました。
右も左も分からない状態で検討委員会に呼ばれ、とりあえず自己紹介と、作業場を探していて教室などを借りられたら嬉しい、というようなことをプレゼンしたらいいと言われてその通りにしました。ただ、今も思い出すとよくプレゼンをやりきったなぁと思うほど、その場の空気は冷えていたように思います。
地域の重役さんは殆どが60代〜70代の男性で、とても意見を気軽にできるような雰囲気はなく、小学校の今後について何一つ決まっていない状態で、明らかに私は場違いでした。
見知った方も数人はいらっしゃいましたが、殆どの人に「この子は一体なんなんだ?」と思われていたに違いません。
その後何もお返事を頂けないまま、借りてきた猫状態で毎月の会議に参加していて、どうしたもんかなぁ…という何とも言えない時間が過ぎて行きました。
すぐに教室を借りられる雰囲気では全然なかったので、結局作業場は別のところで借りることにしていました。それもあって私はこの会議に参加している意味はあるのかとか、もんもんとしていたのを覚えています。
でもそんな風にして数ヶ月が経った頃、ただ黙って会議に参加していた私にも段々と分かることが増えてきました。
- この福住という地域は各集落の自治会組織がかなりしっかりされていること。
- 東部・中部・西部でパワーバランスを取られていること。
- 前の会議の振り返りから始まり議題が進まない日も多いこと。
- 各集落を代表して来られている重役さん達には少なからず責任があり「建前」以上の踏み込んだ話が中々出ず、会議終了後の雑談にこそ本音が聞けること…などなど。
福住という地域社会のなんたるかを理解するきっかけができた貴重な機会ではありました。
しかし結論から言うと、約1年間かけて検討委員会で決まったことは小学校のお向かいにあった支所が耐震の関係で小学校の一階に移転してくる、ということだけでした。
会議の雰囲気といい、スピード感といい、これでは中々若者は関わりにくいだろうし、なんとかしたいならこのままではマズイのでは…というのが正直な感想でした。
地方あるあると言えばそれまでですが、こうした現象を丁寧に紐解いてみます。
まず、少子高齢化や人口減少で村役を担える人は減っているから、必然的に地域の暮らしを維持していく為に一人一人の負担は増えています。
草刈り、掃除、山の整備、獣害対策、神事やお祭り、防災、農作業、自治会長さんクラスになると地域の様々な困り事を一手に引き受け、頭を悩ませねばなりません。
そこに新しく「地域活性」や「地域おこし」なんて言葉が現れて、観光誘致の為のイベントを開催したり、廃校になった学校の今後の活用まで考える。これは本当に、まず体力的に大変だと思いました。
田舎で出会う60歳以上の方々はパワフルな方が多いですが、スローライフとは程遠い生活を送っている方ばかりです。地域の重役を担って下さるような責任感と地域愛のある方は一層その傾向にあります。
よく田舎には資源になる宝が沢山あっても、それを活用できるアイデアがないと言われたりしますが、実際は少し違って、割とみんな「こんな風になったらいいな」は沢山思い描いていたりします。ただそこにプレーヤーとして関われるかというと、体力や技術的に無理なことも多い。
けど、実際に汗水を流して動けて、そのことに責任を持てる人が居なければ何も実現させることはできないのが現実です。(何事もそうかもしれませんが…)
私自身も、関わるなら自分の汗水を流して責任の一端を長期的に担う覚悟を決めなければならないだろうなと思いました。
そしてこの先も関わるか、とても悩みました。そもそも、廃校は活用しなければならないものではない筈なのです。
「地域活性」や「地域おこし」の目的が移住者を増やしたり、地域に関わってくれる人を増やすことならば、何度でもまた訪ねたくなるような地域が目指す姿なはず。
そういった地域の魅力って一体なんだろう、と考えました。
面白い施設があるところ?
変わった取り組みをしているところ?
色んなイベントを頑張っているところ?
助成や福祉が充実しているところ?
景色や景観が素晴らしいところ?
食べ物が美味しいところ?
色んな指標があると思いますが、私がこれまで出会い、また訪ねたいと思う魅力的な地域を思い出す時に思い浮かぶのは、そこで楽しそうに暮らす人たちの笑顔でした。
私は地域の魅力って、そこで暮らしている人たちが楽しそうか、が大きな指標になるのではないかと思っています。
だから地域の人が楽しく関われずに負担や重荷になるくらいなら、廃校を活用せず市に返還するという選択肢は全然ありだと思ったのです。地域には他にも優先順位の高い課題が沢山あるわけですし。
そこで跡地活用検討委員会の会長をしていたSさんに年度最後の会議で次年度以降の取り組みと組織編成について問いかけませんか、と提案しました。
そもそも、本当に廃校を活用したいですか、と
活用するなら、楽しく汗水を流して、責任を担う覚悟を持てる人はどれだけいらっしゃいますか、と。
(続く…)
岸田 万穂
きしだ・まほ
1991年神奈川県生まれ。大学では間伐サークルと旅と長唄に明け暮れる。卒業後岐阜県立森林文化アカデミーに進学し木工を専攻。家具作りを学ぶため宇納正幸氏に師事。丹波篠山市地域おこし協力隊として3年間放置竹林の問題、廃校活用のNPO法人立ち上げに取り組む。現在は木工とNPO法人の理事と二足の草鞋。