連載をさせていただいて約一年、今回が最終回となる。
この一年はコロナによって世の中が大きく変わり、これまでやってきた私たちの事業・活動も見直しを迫られた。
売上も減り、これからどうなってしまうのか不安もあった。
しかしながら、走り続けてきた足を一旦止め、もう一度浜の暮らしを見つめ直すことでたくさんの発見があった。
連載をさせていただいて約一年、今回が最終回となる。
この一年はコロナによって世の中が大きく変わり、これまでやってきた私たちの事業・活動も見直しを迫られた。
売上も減り、これからどうなってしまうのか不安もあった。
しかしながら、走り続けてきた足を一旦止め、もう一度浜の暮らしを見つめ直すことでたくさんの発見があった。
焚き火を囲んで語らう
一緒に近所の人たちと漁をするようになって改めてその凄さを感じるようになった。
70、80代でも現役の漁師たちは「体力落ちたなあ」と言いながら30代の私よりも断然元気。
早朝から働いているのに午後には畑仕事もして、もたついているこちらの作業まで手伝ってくれる。
お母さんたちは毎日、海と山から採ってきた食材をどうやって美味しく食べるか考えるのに忙しく、
悩んでいる暇などないという。
冗談を言い合いながら手を動かし、内側から溢れるエネルギーで肌もツヤピカだ。
「これ食べらいん」と浜でもらう魚介の量は度が過ぎていて、自分たちだけでは食べきれないため
農家の友達や都市に住む家族、知り合いにおすそ分けすれば、米や野菜、肉、お酒になって返ってくる。
これが本当の生きる力であり、豊かさなのではないだろうか。
老後に2000万円が必要だとか、医療・介護の問題、孤独死…老いることが不安でしかないニュースの一方で、
こんなにも生き生きと暮らしている先輩たちがすぐ目の前にいるのだ。
笑顔とエネルギー溢れる食卓
戦後の高度経済成長で、私たちの暮らしは劇的に便利になった。
お金があれば生活に必要なものはなんでも手に入るし、楽しみも与えてくれる。
その恩恵を受けて育ってきた私は、薪を集めたり、冷たい川で洗濯をしたり、肥やしを担ぐ苦労は知らないが、
あまりにも便利が行き過ぎて、人間らしく生きるために大切な知恵や技をいつの間にか失ってきたような気がしてならない。
これまでカフェ事業やイベント、ものづくり、アクティビティーなどでこの浜の良さ、楽しさを伝えてきたつもりではあるが、
コロナによって、もっと大事なことに気付かされた。
獲って食べる
以前の記事で「石巻のもう一つの宝を探す」というテーマの勉強会の話を書かせていただいた。
月1回、地元の方々と季節の海藻を使った家庭料理や郷土料理、暮らしの知恵、歴史などを学び合い、伝えていく会だ。
浜出身のお母さんたちの料理は日々工夫を凝らして作られてきたにも関わらず、誰からも評価をされずにきた。
民俗学者の結城登美雄先生が講師で来られたときに「その日々の家庭料理にこそ価値がある」と言ってくださり、
会の皆さんもやる気になったものの、その知恵を誰に、どう伝えて良いのか分からない状況だった。
そんな折、東北にUIターンして農業や地域づくりに取り組んでいる20代の若者たちのメンターをさせていただく機会があった。
皆、都市の暮らしや働き方よりも自然とともに生きることに魅力を感じ、熱い想いを持ってチャレンジしている。
浜のお母さんたちと、これから地域で生きてゆく若者たち。
両者をつなぐ場ができたらきっと盛り上がるだろうなと思い、はまぐり堂での一日体験ツアーを開催することにした。
今日は漁師に
ツアーでは、朝に浜全体を案内したあと、カゴ漁でタコを獲りに。
漁のあとに、私たちスタッフ、そして浜のお母さんたちも交え、皆でお昼ご飯を囲んだ。
この日は2名のお母さんが参加してくださり、それぞれ3〜4品ずつ家庭で作っている季節料理を持ち寄っていただいた。
普段は捨てられてしまうワカメの茎を使った漬物や、郷土料理のシソ巻きをアレンジしたエゴマ巻き、
デザートには手間暇かけて作ったクルミ団子や栗団子など。
どれも素朴だけれど滋味溢れる料理ばかり。
若者たちも「こういうのがご馳走だなあ」と笑顔で頬張っていた。
お母さんたちも、興味津々の若者たちを前に、料理の作り方や昔の暮らしの思い出話など、時折冗談を挟みながら終始楽しそうに語ってくれて、
「こんなに楽しい機会はないねえ」「まだまだ死ねないわね」「次はなにを作ろうかな」と若者たちとの出会いを大変喜んでくれた。
目を輝かせ、ダジャレを言って大笑いする元気いっぱいのお母さんたちの姿に
「なんでそんなに元気なんですか!?」と、若者たちは衝撃を受けたようだ。
浜出身のお母さん、地域を担う若者たちといただきます
お母さんたちの、季節のものをいただきながら元気に生きるそのパワーを、未来を担ってゆく若者たちに体感してもらえたことは、私たちにとっても最高のひとときだった。
浜のお母さんたちの知恵と生き様が、若者たちにも良い影響を与え、地域に根ざして未来を作ってゆく若者たちの存在が、お母さんたちにも生き甲斐を与えてくれている。
コロナ禍で、これから自分たちが情熱をかけて取り組んでいきたいことがまた一つ生まれた瞬間だった。
蛤浜の暮らしを深めてゆく旅は、まだ始まったばかりだ。
一年間、読んでくださった皆様ありがとうございました!
お声がけいただいた三浦編集室、群言堂の皆様、貴重な機会をありがとうございました!
亀山さんが震災後10年間の歩みを綴った書籍「豊かな浜の暮らしを未来へつなぐー蛤浜再生プロジェクト」もぜひご覧ください!
筆者プロフィール
亀山 貴一
かめやま・たかかず
石巻市蛤浜で生まれ育ち、宮城県水産高校の教師となる。震災によって2世帯5人まで減少した蛤浜を再生するため、2012年3月に蛤浜再生プロジェクトを立ち上げる。2013年3月に退職し、cafeはまぐり堂をオープンする。2014年4月に一般社団法人はまのねを立ち上げ、蛤浜の魅力や課題を活かした事業づくりに取り組んでいる。
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