ここは「新里カオリのお悩み相談室」。
三浦編集室読者の皆さまからの様々なお悩みに、広島・尾道市の立花テキスタイル研究所主宰・新里カオリさんがユーモア&愛情たっぷりにこたえてくださいます。
※この記事は2021年4月発行の「三浦編集室Vol.7」から転載したものです。
<今号の相談>
新里さんが思う大森町のいいところ、そしてもしあればそうでないところも教えてください。大森に住んで5年、そろそろ外からの目線で町を見られなくなってるかなと感じるこの頃。大森を折りに触れ訪ねてきてくださる新里さんの目にはどう映っているのか聞いてみたいと思いました。
(日高・パン職人)
A、5年というと、確かにすっかり現地の人間化してくる頃ですよね。私も尾道に移住した当初を思い返すと、島に渡るフェリーに乗るだけでもドキドキワクワク、お好み焼き屋さんに行ってはおばちゃんが鉄板の上で焼くコテ捌きを動画でキャッキャ言いながら撮ったものです。
大森の良いと感じるところ。私の場合、目をつむって思い出すのは、風景と人のセットです。大きな通りから橋を渡って見えてくる土壁沿いに、長靴をはいて野の花を手に歩く群言堂の鈴木さんの姿や、まあるいメガネを少し下にずらして、他郷阿部家のガラス窓を小さな布でふきふきする登美さんの姿、緩やかなカーブを曲がると少しづつ視界に入ってくる、ブレッツェルのモチーフの看板と、白い服のパン職人達。
あとは夜の暗さでしょうか。人が住んでいる町の中で、あんなに星がよく見えるのは、あまり他ではないな、といつも思います。
大概人が暮らしている町は夜も煌々と街灯が明るく照らされていて、星空なんて見えません。森のシルエットも。この立ち並ぶ家々の奥では、住人達が静かな寝息を立てて今、寝ているんだ、と思うと何とも言えない平和な気持ちになります。圧倒的な自然のボリュームと、その中で身を寄せ合って慎ましく生きる人々が、とてもバランスよく感じます。なので昼の大森はもちろん好きですが、私は泊まってあの夜の町を歩くのを、1年に最低でも一回、できれば半年に一回は体感しに来たいです。
泊まった翌日の朝は、必ず日高さんのパンを食べたいので、末長くその素敵な町で、パンを焼き続けてくださいね。
新里カオリ(にいさと・かおり)
1975年 埼玉県生まれ。
2000年 武蔵野美術大学大学院 テキスタイル専攻修了。教育関係の仕事などを経て2009年、尾道・向島に移住。株式会社立花テキスタイル研究所を創設、主宰。
向島で80年以上織られ続けている帆布を、地域から出る廃材で染めた環境配慮型の製品を製作、販売。地域で生まれたものを原料にする取り組みをしながら、糸紡ぎ、染め、織りの指導などを全国で行う。
新里さんがナビゲーターを務めるYouTubeチャンネル「うららか島暮らし」はこちら