福住地区内には篠山東雲高校という農業高校があります。
実はその東雲高校でも同年にたまたまBamboo Green Houseを建設されており、「放置竹林の竹を使って地域でどんなことができそうか」のアイデア出しのワークショップを一緒にさせて頂くことになりました。そこで高校生の中から「竹でバス停を作る」というアイデアが出ます。
このアイデア、なかなか面白いのでは…と思った私はなんとか形にできないかと、地域調整や下調べをし、「これはいけるかも」となった時点で改めて東雲高校と、Bamboo Green House 建設で仲良くなった京都大学の建築の学生さんたちとプロジェクトチームを作り、1年間かけて取り組むことになりました。
まずは福住地区内の全バス停の調査(建物の状態や使用頻度など)をし、高校生が1番利用するバス停を改修することが決まってからは、実際に利用する地域住民や高校生へのヒアリングをして現状の問題点「座る場所が少ない」「伝建地区にふさわしい景観ではない」「お年寄りは段差が辛い」などが改善され、かつ美しくカッコいいバス停を目指してデザイン案を練っていきました。
伝建地区なので、できるだけ施工も金物を少なめに、目立たないように。
塗料は昔から使われている柿渋で。
木材はもちろん篠山産材。
壁面の割竹は、福住の古民家で使われている意匠を参考に。
耐久性を上げる為に竹の油抜きをして。
背もたれは篠山に馴染みの深い藍染で。
ベンチは誰もが座りやすいように、みんなで沢山の椅子を座り比べて高さや奥行きのベストな寸法を割り出しました。
そうしてこだわりとみんなの知恵・工夫、手間暇という愛の沢山こもった、世界でたった一つのバス停が完成しました。
最初は「そんなことやれるのか」「責任は誰がとるのか」「クオリティは保てるのか」「プロの業者に頼んだ方がいいんじゃないか」そんな厳しい言葉も地域の方から頂いたこともありましたが、原寸の一部を試作してプレゼンしたり、「地域の皆さんが気に入らなければ私が責任を持って現状復帰します!」ということで何とかゴーサインを頂きました。
木工の世界ではよく木を伐るところから生活に取り入れられて使われるところまでを「川上から川下まで」と表現しますが、まさにそれを学生に体験してもらいたかったのです。
自分たちで伐採した竹を、デザインし、加工し、みんなの生活に届ける。その一連を最初から最後まで、自分たちの頭と体を使って成し遂げる。人が本来持つ、「創る力」を全力で発揮し、達成できる。
そんな学びを、この地域で実現させてみたかった。
一年間関わった高校生たちは、回を重ねるごとにみんな主体的に動いてくれたり、アイデアを出してくれたりして、本当に頼りになる仲間になっていきました。
個人的に、最後までやりきった成功体験というのはしんどい時に自分を支える助けになってくれると思っていて、高校生たちが卒業後もこの体験をどこかでふと思い出して、自分に自信を持って、胸を張って生きていってくれたら嬉しいなぁと思っています。
「高校三年間で一番楽しい授業だった」
「ただただ感謝の気持ちでいっぱいです」
「また福住に遊びに来ます!」
そんな言葉をもらって、私は本当に嬉しかったのを覚えています。
「自分たちの通う福住のまちをよくしたい」
こうやって若い子たちが福住で汗を流し、思い出を形に残して行く。
だからまた、福住に遊びに来てくれる。
福住は伝健になったことで古民家の改修に補助が出やすかったり、「まちなみ保存会」というものがあったり、一級建築士のヘリテージマネージャーさんが地区の保存に力を貸してくれていたり有難いメリットも多いのですが、その分所謂その道のプロが施工するのが前提であり、何かする時には文化財課の許可が必要だったりするので、地域の人が自分たちのまちを自分たちの手で良くしたくても二の足を踏んでいるような雰囲気も感じていました。
そこにこのバス停ができたことで、地域の人たちに伝建だって「自分たちもこの町並みを良くして行けるんだ」と気付いてもらえるきっかけになればいいな、と考えていました。
結果、この翌年また翌年と、福住地区内の他のバス停も集落の人たちからお誘いがあり、地域住民の方々と学生たちと一緒に改修した竹のバス停は現在三棟佇んでいます。
岸田 万穂
きしだ・まほ
1991年神奈川県生まれ。大学では間伐サークルと旅と長唄に明け暮れる。卒業後岐阜県立森林文化アカデミーに進学し木工を専攻。家具作りを学ぶため宇納正幸氏に師事。丹波篠山市地域おこし協力隊として3年間放置竹林の問題、廃校活用のNPO法人立ち上げに取り組む。現在は木工とNPO法人の理事と二足の草鞋。