写真をはじめて間もないころに、山口写真館の山口さんから、人とカメラの間で起こる写真の可能性や喜びを教わった僕は、近所で出会う人たちを撮らせてもらうようになりました(第三話参照)。
そして僕自身、子どもの頃は毎日虫をとったり、海で泳いだりという日々を過ごしてきたからか、元気な子どもたちを見かけると妙な親近感がわき、子どもたちにもカメラを向けるようになりました。
そうしているうちに、とびきりやんちゃな子どもたちと仲良くなりました。 夏が近づいてきたある日、その子どもたちが「早よ川いきたいなぁ」と話しているのを耳にし、「え、川?俺もつれてってぇや」と僕が言うと「うん、いいで」と、いっしょに川へ行く約束をとりつけました。
待ちに待った夏休みが訪れ、12時半に「オザキンいくでー」と子どもたちの迎えがきました。そして僕もカメラを手に、いっしょに川へ。
村から自転車で約20分のところにあるその場所は、下部分が深くえぐれた大きな岩盤があり、天然の飛び込み台のようになっていました。地元では「高岩」と呼ばれていて、昔から村の子どもたちが度胸だめしに訪れるところです。
僕も子どもの頃、潜水艦のとまっている呉の港で、堤防から飛び込んで遊んでいたので、はじめて高岩を見たときは、近くにこんな場所があることが嬉しくて、興奮しました。
僕の住む朽木という山村は、人口が少なく、子どもたちも少ないので、特に川遊びは、下は小学3年生から上は中学生までが、いっしょに遊びます。
飛び込みポイントの高岩は、三段階の高さに分かれていて、一番低い場所は2~3m、次に4~5m、一番高い場所は7~8mくらいあります。はじめは一番低い場所からチャレンジし、いつかは自分も、と上から飛ぶお兄ちゃんを憧れの眼差しで眺めながら、ステップアップしていきます。
下から見ていると、一番上の7~8mでも、そんなに高くないように錯覚してしまいますが、実際に登って岩の上に立つと、想像以上の高さがドーンと迫ってきます。
あんな小さな子どもが飛んでいるからと、都会からBBQに来ていた大人が、威勢よく上がってはみたものの、尻込みしてなかなか飛べず、子どもたちに「早よ飛べや~お兄ちゃ~ん!」と、よくいじられています(笑)。
僕も最初にのぼったときは、「あぁぁこれこれこれー」と、恐怖心と好奇心の入り混じった、あの血のわくような独特の緊張感と高揚感を、久しぶりに思い出しました。
川に着くと子どもたちは、まず登っては飛び、登っては飛びをさんざん繰りかえしたあと、自然と次の遊びにうつります。
獲物(魚)をとる、秘密基地をつくる、砂温泉に入る(体を温める)、生きものの死骸やウンチをほじくる、ハチの巣を落とすなどなど…。
そんな解き放たれた環境で、子どもたちが見せる笑顔、全力で走りまわる姿、ケタケタと鳥のように笑う声……、僕は遊びながら自由そのものを表現している子どもたちに、いつも魅了され、これより大事なものはないと思いながらシャッターを切っています。
そして子どもたちは毎日、同じ場所で、同じことを繰りかえします。これがなぜか不思議なほど飽きない。自分もそうでした。あ、今もですが(笑)。
やがて体の疲れとともに「そろそろ帰る?」と、誰かがつぶやき、西日をあびながら、放心状態で自転車をこいで家路に着くのです。
オザキ マサキ
1974年広島県呉市生まれ。滋賀県高島市在住。写真家。「子どもが子どもらしくいれる社会」をテーマに、ドキュメンタリーやポートレートの分野で活動中。写真集に「佐藤初女 森のイスキア ただただ いまを 生きつづける ということ」がある。HP:www.ozakimasaki.com