第六話 タキビバ誕生譚(2)食房夢想編|木方彩乃さんの根のある暮らし

タキビバでは焚火の種類を3つに大別し、それぞれにふさわしい空間を計画していた。1つ目は、大きな火をみんなで囲む「炎舞台」(第5話参照)。2つ目は、小さな火を囲んで会話するための「火野間」。

そして3つ目が、宿泊者が自分たちで調理する空間「炊火食房」である。

よくある、箱型の炊事棟にはしたくなかった。何かがはじまるような、物語を感じさせる外観。

縄文建築のように太い丸太柱が聳え、ヴァイキングのロングハウスの如く巨大な囲炉裏が横たわる。やわらかなトントン葺の屋根からは、息づくように煙が昇るだろう。

そんな世界観を叶えてくれるのは、あの方をおいて他におりますまい。

長らくスウィートグラスの建築を牽引してきた立役者であり、絵本のような独創的な空間を独力で作り上げるツリーハウス作家・稲垣豊さん。

制作のために国内を飛び回っているが、息子の同級生のパパであり大学OBでもあったので、何かと親切にしてもらった。柔軟に対応してくれる建築士さんも見つかり、工事はあれよあれよという間に進んだ。

悩んだのは、内側の設えである。最初はピザやパンが焼ける大きな石窯を考えていたが、薪ストーブの老舗「ファイヤーサイド社」のポール社長に叱られた。「日本人なら米でしょ!」

尺八を奏でるアメリカ人に、かまどご飯の美味しさを力説され、日本人歴40年の私は猛省する。この地域で「へっつい」と呼ばれる2連のかまどを借りてきて、教えられた手順で炊いてみる。

蓋を開けると、沸き立つ湯気とともに現れる神々しいまでの白飯。まさに一粒一粒に神さまが宿っていることを実感するような、深みのある味わい。一緒に朴葉味噌と秋刀魚も炙り、箸が止まらなすぎて驚く。

タキビバには「かまど!」と決めたものの、どんな形やデザインにするか考えあぐねていた折に「ローカル×ローカル」というトークイベントにお誘い頂いた。

メインゲストは群言堂の三浦編集長でフリーペーパーを執筆されているという。誘ってくれたのは、日本仕事百貨の中川さん。私は彼のことを勝手にマブダチだと思っている。

彼によると、私の勤めるきたもっくと群言堂さん、そして私と三浦編集長の姿勢に似たものがあるらしい。興味深くWEBサイトを閲覧していると「暮らす宿」の写真に引き付けられた。

おくどさんの美しすぎる佇まいに、心が射抜かれる。私の理想とするカマド、そのものだった。

トークイベントは、仕事百貨さんの拠点「リトルトーキョー」で行われた。テーマは「かまど」。ではもちろんなくて 「文化ってどうつくられる?」というスケールの大きな話だった。

主催は、南伊豆を拠点に活動している伊集院一徹さん。つい最近、旅行者と地元の人をつなぐ小さな宿「ローカル×ローカル(L2)」を立ち上げた。旅を「暮らしの寄り道」と表現 する試みが面白くて、個人的には「漁師さんといく伊勢海老漁」に興味津々です。どなたか一緒に行きませんか?

トークイベントの内容は、一徹さんのレポートに詳しいのでご一読いただきたい。お客さんで埋まった会場を眺めながら、群馬の山奥に暮らす私が、島根や伊豆や東京の人たちと通じるものがあって嬉しかった。

終了後にみんなでおしゃべりをしていると、一人の女性に声をかけられた。話しているうちに「群言堂さんに行こう!」と盛り上がる。帰り道、久しぶりの地下鉄に揺られながら、何かがはじまる予感にワクワクしていた。


筆者プロフィール

木方 彩乃

きほう・あやの

1978年 埼玉生まれ。多摩美術大学・環境デザイン科卒。在学中から食物を食べる空間「食宇空間(くうくうかん)」の制作をはじめる。2015年より群馬県北軽井沢にある「有限会社きたもっく」に勤務。山間の小さな会社だが、日本一と称されるキャンプ場スウィートグラスを営んでいる。山を起点とした循環型事業を展開。

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