第六話 山を知り、木を生かす|オークヴィレッジの根のある仕事

オークヴィレッジでは、さまざまな人の身体に触れる「木のモノ」を生み出しています。

安心・安全で心地よいモノをお届けするには、最後まで人の手による細かな確認が欠かせません。

第6話の今回は、商品の仕上げなどを担当する古安の話をお届けします。


こんにちは。

オークヴィレッジでクラフトやおもちゃの生産管理を担当しています古安です。

木のおもちゃなどは、「仕上げ場」と呼ばれる作業場で、最終検品、梱包を行っています。現在こちらでは主に2名のパートさんとその作業にあたっています。

工房の職人は木工経験者が多いのですが、こちらでは全くの未経験から始まる人がほとんどです(かく言う私もその一人)。

木のことを知るには、寄木の積木は格好の練習台です。

寄木の積木(木箱入り)

人気のおもちゃ「寄木の積木(木箱入り)」は、毎月数百個生産しています。

商品の中には 38 ピースもの積木が入っていて、全部で8千個近くを検品することになります。

加えて言うと、積木は6面から構成されていますので、面で言うと5万面近くを検品することになるのです。くるくるとピースを回転させながらくまなくチェックしていると、目が回りそうです。

検品中の一コマ(いつもやっているわけではありません。笑)

さて、これだけの量を検品しなければならないのですが、中に入っている樹種も10種類以上はありますので、初めは「これはサクラでこれはホオでこれはケヤキ!」などと言われてもチンプンカンプンだったものが、数百個単位で検品を続けていると、木肌の質感、手触り、重さ、硬さ、匂い、木目の特徴などの違いが、嫌でもわかるようになってきます。

ですので、仕上げ場の人間は、立っている木を見てその名前がわからなくても、きれいに表面が削ってあれば、雰囲気が似た樹種の木でも言い当てられるようになります。

「寄木の積木(木箱入り)」には、同じ樹種の木が3、4個入っていることもあり、遊ぶ人が同じ樹種でも1個1個の違いを楽しむこともできるよう、組み合わせを考えながら詰めています。そんな私たちは1,000本(以上?)ノックのようにひたすら木を触り続け検品するので、みんなあっという間に木を覚えていきます。

そして色の鮮やかなもの、木目の詰まったもの、玄人好みのちぢみ杢やバーズアイといった珍しい木目のピースを見つけると、「おおっ!これ見て!」などと皆で閲覧し、「これが入ってる木箱はラッキーやな!(なぜか関西出身者が多い)」などとワイワイ言いながらも、手はテキパキと作業を進めます。

縮み杢の積木


冬の長い高山も、ようやく寒さが緩み、春を感じる日々となりました。

数年前は雪のお布団の下から頭を出す萌黄色のフキノトウを見つけたものですが、近年は雪も多くなく、雪が解けて既に茶色い地面には様々な緑があるので、春を告げるフキノトウも意識して探さないと見つけられなくなりました。

フキノトウ

仕上げ場の作業もその季節定番のお仕事があったりします。

オルゴールツリーのオーナメントの梱包は秋冬のメインイベントですが、そのツリーを飾る木の実は雪の解けた春に敷地内で拾い集めます。

オルゴールツリー

オーナメントに用いる木の実(ブナ、ハン、スギなど)

「明日の作業は木の実拾いね!」というと、はたから聞くと楽しそうに聞こえるかもしれませんが、当の従事者はちょっとヘキエキした顔になります(笑)

なぜならそれは、楽し気な響きとは裏腹に、ちょっとした重労働でもあるからです。

雪が解けて足元が悪い山の中を、ひたすら下を見ながらさまよい歩き、かがんでは拾い集めるため、腰は痛くなりますし、まさに花粉が飛ぶシーズンですので、花粉症の人はなおさら大変です。そんな中、樹種にもよりますが、数千個の木の実を拾い集めるのです。

夢中になって下ばかりを見てどんどん進んでいると、気づいた時には周りに誰もいなくて、「キノコ狩りってこうやって遭難するんだ…」と妙に納得したりします。

木の実拾いの風景

そんな木の実拾いですが、それぞれの年ごとに様相が変わります。

ある年はカラマツを拾いに行くと、小さい松ぼっくりのような形のはずのカラマツの実が、小さいエビフライのような形になっています。これはリスの仕業です。リスがすっかりかじってしまって芯の部分が残るからです。

その前年は高山市内でもクマの目撃情報が相次いだ年ですが、ドングリやクリなど山の木の実が不作だったために、エサを求めて動物たちが行動範囲を広げ、人の気配がするところにまで出てきたためでした。ショールームすぐ脇の道路をリスが何度も横断しているのをよく見かけました。

リス

カラマツの松ぼっくり(エビフライ型のものは見つからず…)

またある年は飛騨地方にマイマイガという蛾が大量発生し、蛾の幼虫が新緑の季節の広葉樹の葉を見事に食い尽くしてしまい、枯れ山のようになってしまいました。

それでも木々はもう一度葉っぱを生やし、夏には緑は復活したのですが、それで力を使い果たしたのか、その年の木の実はとても貧弱で、小さくなんだかパサパサしていてあまりに壊れやすかったため、商品として使えるものを探してあちこちに足を伸ばさなければなりませんでした。

というわけで、仕上げ場では木製品を生産しながらもその年の山の様子や季節の変化をじかに感じることもできるのです。

それを日々みなさまにお伝えすることはあまりないのですが、積木といい、オルゴールツリーといい、たくさんの種類の木を使っている製品は、それ自体が日本の山を表しているように思います。

単一の木のみが生える山と比べ、ちょっとごちゃごちゃしたくらいさまざまな木々が共生している山、その豊かな営みを感じてもらえるようなモノをみなさまに提供できるよう、仕上げ場はこれからも日々奮闘していきます。


【プロフィール】
オークヴィレッジは、木のおもちゃや家具、木造建築を手がける木工房です。1974年の創業以来、日本の森から木という恵みをもらい、飛騨高山の地で日本の伝統技術を駆使したモノ造りを行いながら、森林保全活動や林業の6次産業化にも取り組んでいます。

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