第三話 漆と向き合う|オークヴィレッジの根のある仕事

こんにちは。
連載第3回の今回は、オークヴィレッジの漆塗り職人・荒川 斐による、漆のお話をお届けします。

漆塗り職人として日々漆に向き合う荒川は、オークヴィレッジに入社する以前から、学校や趣味でも漆と深く関わってきたとのこと。

前半は「荒川と漆塗り」のお話、後半は群言堂さんとのコラボレーションソファの漆塗りの工程をご紹介します。



オークヴィレッジには、塗師屋(ぬしや)と呼ばれる、塗装を専門に行う工房があります。漆塗り職人はこの塗師屋の中で、漆塗りやそれに関わる作業を行っています。

塗師屋 外観(人家を改築した建物)

塗師屋 内観

塗師屋 作業場で椀を塗る荒川

漆塗りとの出会い


―漆塗りとの出会い、漆に惹かれたきっかけは?

出会いは高校時代までさかのぼります。
入学した美術高校は、染織、陶芸など、いくつかの科を体験し、そのうち1つを選択して学ぶというものでした。

その中に漆塗りがあり、黙々と漆を塗っては砥ぐというような、地味で気長な作業でしたが、私にはそれが自分に合っていそうだなと感じ、専攻に選びました。あまりドラマ性はありませんが。笑

実際、漆塗りの作業は自分に合っていて面白く、高校で少し学んだところで、もう少し深く漆塗りの技術や歴史を学び、実際に漆を塗ることができる環境に身を置きたいと思い、それが叶う大学へ進むことにしました。

そして、大学生活も漆漬けの毎日を送り、気づけば進路を考え始める時期に。進路について悩みつつも漆塗りの卒業制作をつくっていたところで、転機が訪れました。

『オークヴィレッジで漆塗り職人を一人募集しているらしい。』
漆関係の知り合いから、そのような連絡が入りました。仕事として毎日漆の作業ができる環境に身を置けるという想いで、さっそくオークヴィレッジに応募。唯一選考を受けたオークヴィレッジへの入社がトントン拍子で決まりました。

木工芸と漆工芸の漆塗り


オークヴィレッジの「拭き漆塗り」(漆を塗って拭いて…を繰り返す塗り方)という技法は、それまで学んできた漆工芸の技法とは少し異なります。

「漆塗り」というと、多くの方は輪島塗などに代表される、黒色や赤色の蒔絵が施された漆器をイメージされるのではないでしょうか? 漆工芸の技法では、漆そのものの美しさや加飾の美しさを見せるものが多く、木目が見える塗りはあまりありません。

それに対して木工芸の塗装はあくまで木がメインとなります。拭き漆塗りは塗りの回数を重ねることで木目が際立ち、塗膜に深みが生まれ、木材の強度を高めます。

拭き漆塗り仕上げの原料「生漆」と道具(刷毛、筆)

漆を硬化(漆液が化学反応によって硬くなる現象)させるため、一定の湿度と温度に保たれた空間(「風呂」)に入れた器

それまで学んできた漆工芸においても拭き漆塗りという技法はありますが、メインの漆塗りの下地としての工程でした。拭き漆塗りは下地のイメージが強かったこともあり、正直「簡単なのでは?」などと思っていました。

しかし、カップ、お椀、家具などを塗っていくにつれて、拭き漆塗りの奥深さや、漆のみならず、木の特性も知らないとできない難しさに気づかされました。

塗って拭くだけの作業だと思っていた拭き漆塗りは、そんな単純な作業ではうまくいかず、磨き、乾燥、塗る速さ、塗膜の厚さの調整、塗る順番…さまざまな工程、技術、手間が必要とされる作業でした。

―ここまで深く漆塗りにかかわる大きな理由は?

「漆塗りの作業が好き」ということが一番だと思います。
漆が好きというと、漆塗りの工芸品などが好きだと思われることも多いですが、私はあくまで「漆塗り」という作業が自分に合っていて好きなんです。

仕事として漆塗りに関わり、奥深さや難しさを日々知っていく中で、自分の思い浮かべる作業や出来上がりイメージを形にすることがやりがいでもあり、面白さだと感じます。

かかった時間や塗った数を毎回記入し、技術や効率の向上につなげる。

木工会社の漆職人として求められるのは、何十、何百の商品を同じ品質で完成させ、より高い品質のモノを、より多くのお客様にお届けすることだと思っています。

そのためには自信を持って塗れることが必要だと思っています。スピードと精度を上げ、そつなくすべて塗ることができるようになるのが今の目標です。

また、漆に触れる機会の少ない同年代の方などに、自分が塗ったモノを通じて漆の魅力を知ってもらい、使ってもらうきっかけになればと思っています。

漆塗りの家具

― 群言堂×オークヴィレッジ コラボレーションソファでは、漆塗りが大きな魅力の一つとなっています。漆塗りの家具の魅力は?

一つは、塗り直しが可能なことです。オークヴィレッジの家具の場合、漆塗りに加えて無垢材のため、劣化した漆の膜や傷を削って再度塗り重ねることで、さらに深い味わいに変化します。

より永くお使いいただくために、塗り直しができるということも考えながらお使いいただきたいと思っています。(※目安は10年程度での塗直しをお勧めします)

群言堂×オークヴィレッジ コラボレーションソファ漆塗り工程 (2人掛け 拭き漆塗り仕上げ)

無塗装の木地

◆塗る場所、順番の検討
基本全方位塗るため、どの部分をどの順番で、どこを床に置いて塗るかなどを、事前に木地の図面を見て考えます。

◆木地調整
移動中の傷や刃物跡などをなくすために確認し、傷などがあればヤスリでみがきます。

◆拭き漆塗り1回目
漆を木地にしっかりと吸わせることが目的です。

拭き漆塗り1回目 塗装後

◆みがき1回目
拭き残しや木地調整で残った傷や跡を再度確認した後、やすりでみがきます。

◆拭き漆塗り2回目
漆を塗膜の上に乗せて重ねていくイメージで塗ります。漆の光沢が一気に現れるため、塗膜の厚さなど特に気を遣う工程でもあります。

風呂に入れて硬化させる

◆みがき2回目
紙やすり(サンドペーパー)の目の粗さを1回目より細かくします。

◆ふき漆塗り3回目以降
2回目と同様。さらに漆を乗せて塗膜の層を厚くしていきます。

漆の塗った後のふき取り

◆検品、手直し
気になる箇所があれば手直しを行い、漆塗りの工程は終わりです。

座張りをしたコラボレーションソファ(群言堂本店での写真)

コラボレーションソファ|群言堂×オークヴィレッジ


【プロフィール】
オークヴィレッジは、木のおもちゃや家具、木造建築を手がける木工房です。1974年の創業以来、日本の森から木という恵みをもらい、飛騨高山の地で日本の伝統技術を駆使したモノ造りを行いながら、森林保全活動や林業の6次産業化にも取り組んでいます。

わたしの根のある暮らしの他の記事

石見銀山 群言堂