第三話 古民家あるあると冬の楽しみ|岸田万穂さんの根のある暮らし

寒いのは苦手で冬はあまり好きではなかったけれど、篠山に来てからは年々好きになりつつあります。

寒い日の古民家氷柱

移住するまでは兵庫県が寒いというイメージはあまりなかったのですが、丹波篠山の冬はそこそこ寒く、築100年越えの古民家と言われている我が家では布団から出ている鼻や耳が寒さで痛くて目が覚める朝があります。

そんな日は大抵部屋の温度はマイナスを記録しており、着替えを布団の中で温めてそのまま布団の中で着替えるライフハックもすっかり板についてきた今日この頃です。

この古民家で暮らして3年が経ちましたが、長く空き家だったお家をお手入れしながら命を吹き込むというのは大変なことなんだなぁと、ますます他郷阿部家の凄さを実感する日々です。

冬の篠山名物、丹波霧

古民家で苦労したことのトップは冬の寒さです。

よく言われてはいますが、もし持ち家だったらやっぱり床下改修と断熱は必須だろうなぁ、という結論に至っています。とにかく床からの底冷えと湿気がすごく、引っ越したばかりの頃は床下換気口らしき穴からネズミが出入りしておりました。

現代生活のような火のない暮らし(おくどさんや囲炉裏は使えない状態)ではこの湿気や寒さに対抗できないので、個人的には薪ストーブなどを入れたいところだったのですが、我が家は借家でトタンを被ったタイプの茅葺古民家なので火災の心配があり大家さんの許可がでませんでした。ペレットストーブやロケットストーブなどで、かつ消火栓や貯水場が近くにあれば可能だったのかもしれません。

屋根裏で悪さをする動物や虫も、かつてはおくどさんや囲炉裏から出る煙に燻されていなかったらしいことも考えると、やはり日本の昔ながらの家というのは「火」を中心とした暮らしの上に設計されていたのだな、と実感します。

暮らしながら家について体感に基づく観察・考察をして、できる範囲で修繕や実験をしているのですが、それはこうして古民家に実際住んでみなければ得られなかった時間で、有り難く面白い経験だなと思っています。

お気に入りのランタンとトムテ(北欧の森や古い農家にいる妖精、私が作った為に平たい顔族風)

借家ということで縛りはありますが、私もただ寒い家で凍えているわけにはいきません。

例えば最近は二畳分のカーペットの周りにどこからともなくやってくる隙間風を防ぐ為に板でバリケードを作り、布団と小さなテーブルとストーブを持ち込んでほぼその中で暮らしています。

おしゃれとは言い難い環境ではありますが、たまに電気を落としてランプや蝋燭の灯にすると山小屋キャンプ気分で過ごせてこれはこれで結構楽しかったりします。

そんなイマジナリー山小屋のストーブでコトコト煮込んだ冬の篠山のご馳走、「黒豆煮」「ぼたん鍋」(篠山はぼたん鍋発祥の地らしく、狩猟が盛んで猪肉が普通に流通しています)「おぜんざい」がまた一層美味しく、私の冬の楽しみです。

おぜんざい

それもご近所農家さんや友人猟師さんから買ったり、自身の労働(木工のお仕事や簡単な大工仕事)を対価に得たりした顔の見える関係性での食材100%だったりすると、これ以上のご馳走はないなぁ、なんて思ったりします。

初冬になると農家の軒先で篠山在来の大納言小豆や黒豆を選別するおばあちゃんをよく見かける

あともう一つ私の冬の楽しみといえば、お世話になっている集落で毎年12月半ばに行われるしめ縄作りです。

集落の中にはしめ縄作りの上手な方が何人かいらっしゃって、その方に習いつつ、みんなでワイワイしめ縄を作り、これまたぼたん鍋をみんなで頂く、というとっても素敵な会です。

残念ながら昨年は時節柄中止となりましたが、私はこの会がとても好きです。

しめ縄作り

しめ縄作り名人のおじちゃんが近所の小さな子に教えている姿があり、一人暮らしの手の不自由なご老人の分を作ってあげている人がいて、集落に必ず一人はいる猟師さんの捕まえた猪で、料理上手なお母さん達がぼたん鍋を作る。

関係性の豊かさに、心を堪らなく打たれました。

今までは普通に買う物だったのが、ここでは作る物であり、その素材もまた自分たちで育てたり、山から頂いたものであること。

自分のできることは出し惜しみせず、できないことは誰かに助けてもらえる関係性を築き、ひとりで大変なことはみんなでやる。

3年前に初めて作ったシンプルな正月飾り

無理なく、滞らずに、巡って、繋がっていく。
季節、命、人の暮らし。

当たり前のように見えて、そのバランスを取るのは現代ではとても難しいことだと思うのですが、田舎はお師匠さんだらけです。

自然の厳しさがあるからこそのご馳走、少しの不便さ・不自由さの中に自分で工夫したり、先人に教わったりして見出していく楽しみ、彩りや心地よさが癖になる。

これがあるから冬はいいな、と思える物が増えていくというのがとても幸せです。


筆者プロフィール

岸田 万穂

きしだ・まほ

1991年神奈川県生まれ。大学では間伐サークルと旅と長唄に明け暮れる。卒業後岐阜県立森林文化アカデミーに進学し木工を専攻。家具作りを学ぶため宇納正幸氏に師事。丹波篠山市地域おこし協力隊として3年間放置竹林の問題、廃校活用のNPO法人立ち上げに取り組む。現在は木工とNPO法人の理事と二足の草鞋。

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