第二話 自身に根を下ろす|岸田万穂さんの根のある暮らし

「君、随分大きい荷物だね。どこから来たの?学生?」

東京から夜行バスでやってきた群言堂本店でのトークイベント後にそう声をかけて下さったのが群言堂広報の三浦編集長でした。

勢いで島根まで夜行バスでやってきた私は、その日の宿は大田市近辺で安いところを探そう(見つからなかったらどこかでこっそり野宿でもしよう……)などと考えて、登山用の愛用のシュラフと携帯コンロ、非常食などを詰めたバックパッカー姿。トークイベント会場では浮いていたに違いない。

東京から夜行バスで来た学生だということ、宿は決まっていないことなどを話すと「ぜひ群言堂や大森を案内したい」と申し出て下さり、夕食に群言堂の若手社員さん達との交流会まで急遽企画して下さり、すっかり楽しい時間をお世話になってしまったのでした。

群言堂という会社の様々な取り組みの中に一貫して見える哲学やセンス、そこで働く素敵で愉快な方々、地域との関わりや暮らし方を見て、こんな風に働き生きていけるんだと、勇気と希望と羨望と、救われたような温かい気持ちになったのを覚えています。

それ以来、今に至るまで仲良くさせて頂いていることは本当に有り難く、幸せなことだなぁと思っています。

早朝に三浦さんたちに連れて行ってもらった釣り。小野寺さんがすぐに揚げてくださった魚の天ぷらが最高に美味しかった!

そして群言堂さんとの出会いでより意識するようになったことが「自分には一体何があるのか、できるのか、したいのか」ということでした。

群言堂でそれを分かっている人たちの仕事ぶりが本当にかっこ良かったからです。

それが自身に根を下ろすということなのかな……と思っています。

切り株から芽生えた実生

学生時代はいわば土壌づくりの期間だったと思うのですが、当時私が熱中していたことと言えば、第1回で取り上げた旅と、大学で学んでいた歴史・民俗学、間伐サークル、長唄でした。

歴史や民俗学は旅にも通じますが、私は人間が何を考えてその土地で生きて、どんなものを生み出してきたのか、みたいなことに非常に興味がありました。

間伐サークルでは毎年岩手県の紫波町(しわちょう)という場所で、若者が少なくなり荒廃しつつある地方の山林に、都会にいる元気な(時には元気をなくしているような)若者を連れていく間伐体験ツアーの企画運営をしていました。そこで日本の山林へ興味を持つようになります。

「適材適所」の言葉の通り多種多様な樹種の特性を活かした日本特有の木の文化や農山村地域の人々の暮らし、地域の人・仲間たちとの協働・交流を通してみるみる変わっていく山林と人の表情に出会い、もっとこの分野に関わりたいと思うようになりました。

間伐サークル

そして前回の話の「刃物をちゃんと扱えるようになる」目標と合わさり「地域の山と関わる木工」を志すことにしたのでした。(もう一つの目標の楽器は長唄に繋がるのですが、そのあたりの話はまた機会があれば……)

専門学校で校舎をバックに制作課題の机と

その後専門学校で木工を学び、「つくる」側に立ってみると今まであまり気にしていなかった様々なことを意識するようになります。

機械で大量に、安価に、性能も良い物が作れる時代に、手で作るものづくりにはどんな意味、価値、魅力を感じてもらうのか。
本当にそれは木が適材なのか。

樹という生物資源であること、地域材を使うことでそこに関わる人々の背景を知っているからこそ、簡単にゴミになってしまうような物は絶対に作りたくない……。必要とされるもの、デザインの根拠とは?

これは私の悪癖にもなりうる点なのですが、「つくるのが楽しい、面白い、大好き!」という感情より(もちろんそれが無いわけではありませんが)、様々な要因や思想によって選んできた道なので、ついつい頭でっかちになり、いつも気づくと様々な自問自答を繰り返しながらものづくりをしている気がします。

「つべこべ言わずまずは技術を磨き、ちゃんと良い物を作る。話はそれからだ!」と、もうひとりの私が叱責します。それもまた真理……。


現時点での私の落とし所としては
できるだけ矛盾のない気持ちの良いものをつくる
適量なものづくりをする
ものの最期にまで想いを巡らす
ものを仕立て直すことも仕事にする

といったところです。

これは「つくる」ことだけじゃなく、「暮らす」ことにも言えることかも知れません。次回からはいよいよ今の暮らしや仕事の内容を中心に綴っていきたいと思います。


筆者プロフィール

岸田 万穂

きしだ・まほ

1991年神奈川県生まれ。大学では間伐サークルと旅と長唄に明け暮れる。卒業後岐阜県立森林文化アカデミーに進学し木工を専攻。家具作りを学ぶため宇納正幸氏に師事。丹波篠山市地域おこし協力隊として3年間放置竹林の問題、廃校活用のNPO法人立ち上げに取り組む。現在は木工とNPO法人の理事と二足の草鞋。

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