三浦編集長、鹿児島しょうぶ学園を訪ねる
こんにちは。広報の三浦です。
まもなく、7月7日から群言堂本店で始まる展示『しょうぶ学園展 NO FEELING&NO HEART=NO DESIGN』開催に先駆け、
(もうだいぶ前ですが)1月に鹿児島にある障がい者支援施設「しょうぶ学園」をスタッフ3人で訪れました。
しょうぶ学園は障害者の「できることを伸ばす」ことを突き詰めた結果アート&クラフトに行きつき、独自の形で障害者の生き方に向き合ってきました。
そこで触れた何事にもとらわれない表現のかたち、生命の輝きに三浦は強い衝撃を受けました。
簡単なご紹介ではありますが、皆さまとその体験を共有したいと思います(と書きはじめましたが予想外に長くなってしまいました。どうかお付き合いください)。
小さいころ、お絵描きといえば心に思いつくままなんでも描いた記憶があります。
しかしいつしか絵を描くこともなくなり、今ではいざ紙と筆を渡されても、上手く描かなければと気にしたり、一生懸命描いて下手だったら恥ずかしいと敢えていい加減な絵を描いたり、
簡単に描けそうな猫型ロボットに逃げたり、雑念が邪魔をして純粋な表現ができなくなっていることに気が付きます。
いつからこんなにも不必要に失敗を恐れ、他人の評価を気にするようになってしまったのでしょうか…。
でもしょうぶ学園を訪れて、事を成す前に余計な足踏みをすることがいかに自分の可能性を狭めてしまっているのかを実感しました。
しょうぶ学園ワールドへ
三浦はあまり事前知識を入れずにこの地を訪れました。もちろん最低限の施設概要や作品は見ていましたが、初見の楽しみを取っておきたい思いもあったからです。
わくわくしながら入り口の門をくぐると、もうそこはしょうぶ学園の世界。
「徐行してください」と書いた看板や全面に絵を描いた軽トラなど、ところどころにスタッフと入所者による作品が目に入ってきます。
そのまま木々の間を入っていくと右手にスタッフと施設利用者で運営するそば屋「凡太」、パン屋「ポンピ堂」、pasta&cafe「otafuku」があります。
お昼otafukuにていただきましたが、お店の空間づくりも利用者の方々の作品が随所にちりばめられていて素敵でした。
いただいた手打ち生パスタのセットはとてもおいしかったです。
これらの飲食店は施設利用者ではない一般のお客様も数多く訪れるそうですが、それも納得の品々でした。
パン屋さんの軒先には毎日、黒板に書いた日誌が立てられます。
こちらで働く利用者の方が日々書いているそうですが、天候のことやニュースのこと、またさりげない気遣いまで感じられて心惹かれます。
あまりに素敵なので、『カリヨン黒板日誌』(パルコ出版、2013)という本にもまとめられています。おすすめです。
ホースを巻くアレ
最初に見た看板や軽トラもそうですが、施設で使われている道具などは何かが描いてあり作品になっているものが多いです。
その中で三浦が気になったのはこちらのホースを巻くアレ(これの正式な名前が分かりません)。
何やらテレビやラジオの放送局の名前がズラッと描かれているのです。新聞のテレビ欄かなと思いますが、ただそれだけなのに言いようのない魅力があります。三浦はこの方の作品が気に入りました。
入り口から40~50mほど歩くとビオトープや芝生の広場があり、ロバと羊が出迎えてくれます。
この広場を中心に色々な施設が展開しています。
人と自然の混ざり合う空間はとても心が落ち着き、到着して数分ですが早くもこの場所に安心感を感じ始めていました。
季節によっても違う表情を楽しめることでしょう。
さて、まずは事務所へご挨拶に伺い、デザイン室の壽浦翼(じゅうら・つばさ)さんに施設をご案内いただくことに。
最初にご案内いただいたのは事務所横にある「Sギャラリー」。
しょうぶ学園で創作活動を行う「工房しょうぶ」で利用者が作った作品など企画展を常時行っています。
工房しょうぶでは利用者だけではなくスタッフも一緒に創作活動をし、皆がクリエーターとしてオリジナルの作品を作りだしています。
入ると木彫や大判の絵画、陶芸や刺繍作品などが展示されていました。
特に印象に残ったのはこの木彫作品です。ユーモラスでインパクトのある表情が非常にいいです。好きです。
しかも題名を見ると「○○さん」と人の名前が書いてあり、壽浦さんに聞いてみると施設のスタッフをモチーフに作られたのだといいます。
先ほどの看板もそうですが、日常のごく身近な物事がそのままストレートに表現に昇華されているのが印象的です。
他にも作者の感性をビンビン感じる作品たちが並びます。
ここを見るだけでも工房しょうぶの作品から発せられるエネルギーに圧倒されます。
創作の現場を見学
これらの作品たちはどのように作られたのでしょうか。
工房しょうぶの全貌を見ていくことにしましょう。
工房へと向かう途中、持続可能な食と農を考える活動「S-plants」のビニールハウスを通りかかりました。
ここでは土づくりから有機農業に取り組み、冒頭にて紹介した飲食店で使用する野菜の自給を増やす挑戦などしているそうです。
木の工房
工房は「木の工房」「布の工房」「土の工房」「和紙/絵画造形の工房」に分かれています。
最初に伺ったのは木の工房。
木の工房では家具も作れる設備が整っており、木彫作品から器やカトラリーまであらゆるものが生み出されています。
入ると、作家さんたちがノミやハンマーを使って彫刻を彫っていました。
カンカンカン、カンカン・・・シャリ、シャリ・・・
大きな作品から小さな作品までさまざま。皆、思い思いの創作をしています。
驚いたのは、その手に一切の迷いを感じないこと。
赤いジャケットの方は、あの施設スタッフがモチーフになった彫刻の作家さんでした。
「これは、○○さん」もう明確なイメージが頭の中にあるようです。
ただ淡々と、真っ直ぐに、手が進んでいきます。
面白かったのは、皆さんこんなに集中して取り組んでいるのに、お昼の放送があると何の執着もなくパタッと席を立ち食堂へと移動してしまうというお話でした。
他にも木地を成型するろくろや漆塗り用のスペースなども見せていただきました。
土の工房
次に土の工房をご案内いただきました。
土の工房では主に陶芸作品を作っています。
自由度の高い土の造形は制作者一人ひとりのオリジナリティが特に爆発していて本当に面白いです。
大きなテーブルを皆で囲んで、一人がいい人は個別ブースで、それぞれマイペースに創作中。
ちょっと眠たそうな人も、楽しげに笑顔で作る人も。
ここでもやはり、皆手つきに迷いがありません。
作品そのものにも興味が湧きますが、何よりも作っている方々に段々と心惹かれていきます。
一体何があなたを創作に突き動かしているのか?
手先に宿る力の源泉に触れてみたいと思わされます。
布の工房
続いて布の工房へと足を進めます。
ここでは裂き織り、刺繍、シルクスクリーンなどを中心に独自の作品を生み出しています。
こちらで作られている刺繍作品は「nui project」というプロジェクト名で取り組んでおり、そのオリジナリティ溢れる自由な針の運びは高く評価を得ています。
今回群言堂の展示では、布つながりということでこのnui projectを中心に展開します。
nui projectの刺繍を見ていると、その作品一つひとつの個性が際立って見えます。
針を刺す密度や感覚、量も様々です。時には一つの作品に何年もかかることもあるのだとか。
でも決まってそんな作品も、出来上がると本人は興味がなくなってしまうそうです。
執着という言葉を知らず、真っ直ぐ前しか向いていないようです。
和紙と造形の工房
最後の工房は「和紙と造形の工房」です。
ここは入った瞬間「おお・・・。」という声が漏れてしまいました。
工房内外の壁面、床、備品にいたるまで所狭しと絵が描き込まれ、さながら工房全体が一つの作品のようなのです。すごすぎる。
「芸術は爆発だ!」と岡本太郎は言いましたが、太郎氏の言う芸術とは生きることそのもの。
まさしく自分の生をストレートに表現するしょうぶ学園の作家さんたちの生き様こそ芸術と呼べるのではないでしょうか。
彼らにとっては床だろうが壁だろうが関係なく、この世界そのものがキャンバスなのでしょう。
ん・・・?
ああっ!!
あの名作「ホースを巻くアレ」を作ったテレビ欄のお方!!
にわかファンではありますが、実際の作者にお会いできて感激の三浦でした。
あの文字列は空で記憶しているんですね~!
あこがれと尊敬のものづくり
しょうぶ学園のツアー、いかがだったでしょうか。
工房の人々とその作品には本当に魂を揺さぶられました。
この日出会った方々は皆、それぞれが優れた表現者でした。それも飛び抜けたレベルの。
30年余り生きているうちに、いつの間にか身につけてしまった感情のブレーキや失敗への恐れ、物事への執着。
そんな自分が本当にちっぽけに見えてくるほど、彼らは丸裸で、迷いなく自分のすべてを対象にぶつけて作品を作っていました。
上手く作ろうとか失敗したくないとか、奇をてらうだとか、そんな作為は1ミリたりとも感じません。
そこには、今この瞬間を生きる人間の姿がありました。
そんな彼らに、三浦は強いあこがれと尊敬の念を抱きます。
本物の作品に会いに、ぜひ石見銀山へ
しょうぶ学園は障害を持って生きる人の得意を最大限に引き出せるのはアート&クラフトだと見抜き、その能力を発揮する場を時間をかけて作ってきました。
工房しょうぶ以外にも、不揃いの音をコンセプトとしたパーカッショングループ「otto & orabu」など数々の活動を通して活躍の場を広げているところです。
今回の展示をきっかけにしょうぶ学園の取り組みに触れ、憧れのものづくりを通して、人の生きる力を大いに感じていただけましたら幸いです。
三浦も改めて作品たちから学び、自分自身の表現を模索していきたいと思います。模索していてはまだまだでしょうが・・・。
とにかく、絶対に見て後悔しない展示であると強くおすすめします!たくさんのご来場をお待ちしております。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
※近日中にしょうぶ学園を運営する福森夫妻の取材記事も掲載予定です!そちらもぜひお楽しみに。
三浦類(みうら・るい)
群言堂広報担当。愛知県名古屋市出身。
学生時代に群言堂のインターンで大森を訪れたことをきっかけに2011年入社。広報誌「三浦編集長」の制作や取材対応、WEB・印刷物での情報発信などを担当。植物担当・鈴木や阿部家・小野寺とともに狩猟免許を取得するなどして、頻繁に山や海で遊びながら大森暮らしを楽しんでいる。趣味はフラメンコギター。