梶山正「京都大原で暮らす」|第十一話 紫蘇ジュースを作ろう

我が家の畑に育つ、青紫蘇と赤紫蘇たち。

京都の三大漬物と言えば、柴漬け、すぐき、千枚漬けである。

大原は柴漬けの産地として名高い。柴漬けの歴史は平安時代末期と言われている。平家滅亡後に隠棲した建礼門院徳子(平清盛の娘)が、大原寂光院で暮らした様子は平家物語にも書かれている。

大原の里人が古くから伝わる紫蘇の葉を使った漬け物を建礼門院に差し入れたところ、彼女は喜んで紫葉漬け(むらさきはづけ)と言ったとか。それが紫葉漬け(しばづけ)と呼ばれるようになり、さらに「柴漬け」の文字で定着したそうだ。

大原のちりめん赤紫蘇は原種に近いと言われている。狭い盆地で800年以上繰り返し栽培されてきたことによる。

さて、大原は良質な紫蘇が採れるので柴漬けが名物となったわけだが、英国人のベニシアは日本の漬け物の味がもうひとつ理解できないらしく、我が家では柴漬けよりも紫蘇ジュースの方に人気がある。

まあ、僕が英国料理を理解できるかと聞かれれば、それはそれで考えてしまうところだ。

英国人の味覚といえば、ベニシアの弟チャールズと奥さんのリズが日本に遊びに来たとき、リズは日本食が口に合わなくてたいそう苦労した。

奮発して高級日本料理屋や旅館に連れて行っても、食事の時はいつも悲しそうな顔ばかり。チャールズは日本食に大満足しているのに、リズは「ピザが食べたい」と暗い顔。

考えあぐねたベニシアは、彼らを大阪に連れて行った。たこ焼き屋である。リズはたこ焼きにいたく感動して「日本で一番おいしい!」と歓喜した。

帰りはリズのリクエストで、近いけれど大阪から京都まで新幹線に乗った。リズは海の向こうで相当活躍している弁護士の一人であるが、たこ焼きと新幹線で舞い上がる姿を見て、僕はまるで子供みたいだなと思った。

出来上がった紫蘇ジュース。甘酸っぱくていい香り。

柴漬けとたこ焼きと話が飛んでしまった。さてさて、紫蘇ジュースを作ろう。簡単ですぐにできるので、ぜひトライしてみて!

材料:
生の赤紫蘇の葉100g、生の青紫蘇の葉200g、クエン酸25g、砂糖1kg(甘いのが苦手な人は多少減らす)、水2リットル。

作り方:

1) まずは紫蘇の葉を茎から取る。茎は使わない。
2) 鍋にお湯を沸騰させ、洗った紫蘇の葉を入れて約10分間煮る。
3) 火を止めてクエン酸を入れてかき混ぜて煮汁を漉して、搾り取る。
4) 3の煮汁と砂糖を鍋に入れ、かき混ぜながら火にかける。一煮立ちで出来上がり。
5) 滅菌した瓶に入れ、蓋をして冷蔵庫に保存する。
* 水やソーダで約5倍に薄めて飲む。ミルクで割ってもおいしい。

紫蘇ジュース作りで最も手間なのが、茎から葉を取る作業だ。仲間と喋りながら楽しくやろう。

日本人の味覚に合う紫蘇は、古くから日本の食生活と関わっている。

昔の中国の話だが、かにを食べて食中毒を起こした人に、医者が紫蘇の葉を煎じて飲ませたところ元気が蘇った。「蘇る紫の葉」が転じて紫蘇という名前になったそうだ。

紫蘇から作られる蘇葉(そよう)という生薬は、解熱、鎮痛、鎮静、咳、喘息、便秘、嘔吐、食欲不振などに効能があるという。

刺身のつまや天ぷらなどによく使われる青紫蘇。

紫蘇ジュースで赤紫蘇と青紫蘇の2種類を混ぜるわけは、赤紫蘇よりも青紫蘇の方が味と香りが強いから。とはいえ、青紫蘇だけだと色が良くないので赤も欲しい。

赤紫蘇にはシアニジンという色素成分が含まれ、酸と反応して赤く発色する性質を持つ。この紫蘇ジュースでは、クエン酸の酸により鮮やかな赤色になるわけだ。

梅干しが赤いのも、柴漬けが赤いのも同じである。柴漬けは乳酸発酵により、シアニジンが反応するのが本来の作り方であるが、近頃の手抜きの簡易な柴漬けの作り方では、酢を加え、その酸でシアニジンを反応させて赤くするらしい。

こだわる人は、半年ほども時間をかけて、ちゃんと乳酸発酵で作られた昔ながらの柴漬けを食べたいですよね。







筆者 梶山正プロフィール

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かじやま・ただし

1959年生まれ。京都大原在住の写真家、フォトライター。妻はイギリス出身のハーブ研究家、ベニシア・スタンリー・スミス。主に山岳や自然に関する記事を雑誌や書籍に発表している。著書に「ポケット図鑑日本アルプスの高山植物(家の光協会)」山と高原地図「京都北山」など。山岳雑誌「岳人」に好評連載中。

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