約40坪ある我が家の庭には、妻のベニシアが植えたハーブがたくさん育っている。
ふつうハーブと言えば、タイムやローズマリー、スペアミントなど西洋ハーブを思い浮かべる人が多いと思う。
ハーブとは、もともと草木を意味するラテン語が語源だ。現在、日本で一般的に使われるハーブという単語は、そのラテン語が変化した英語が日本に伝わってきたものである。薬草や料理の風味付け、香料、染料、保存料などに使える有用植物全般を指している。
古代から世界のあらゆるところで、人間はその地に育つ有用な植物を見つけて、それらを日常生活に取り入れ役立ててきた。
当然、日本でも生薬や民間薬、また料理の薬味や草木染めなど、古代から人々に使われてきた植物はたくさんある。それらは日本のハーブと言えるだろう。
我が家の庭のハーブを見ているうちに、思いのほか日本のハーブが多いことに気がついた。
紫蘇、三ツ葉、茶、葱、フキ、カラスウリ、桔梗、菊、キンセンカ、ミョウガ、伊吹じゃこう草、スイカズラ、ムクゲ、和バラ、枇杷、ミカン、柚子、山椒、クスノキ、桑などだ。
茶や葱などは古い時代に中国から伝わった帰化植物であるが、日本の文化と生活に長く根付いているので日本のハーブの仲間に入れた。
植えたわけではないのに、いつのまにか勝手に庭や家の前の土手に育っている日本のハーブがあることも気付かされた。
ドクダミ、タンポポ、ユキノシタ、ヨモギ、スミレ、ナズナ、ハコベなど。どれも食べられる植物なので、我が家の食卓にときどきそれらが出てくることも。それらを紹介しよう。
ドクダミは多くの薬用効果があることから、乾燥させたものは十薬(じゅうやく)とも呼ばれる。我が家では6月の梅雨前の花が咲いている時に収穫してドライハーブティーを作っている。
乾燥させるとあの生の独特の悪臭は消えるのでご心配なく。穏やかな下剤や利尿薬、血管強化作用があるそうだ。
タンポポの花と葉は生でも食べられるが苦い。油炒めすると食べやすくなる。根を刻んで乾燥させ、フライパンで焦げるまで炒ったものを粉にするとタンポポコーヒーのできあがり。コーヒー好きのカフェインレスの飲み物だ。
ユキノシタの名の由来は、雪の下でも枯れずに生きていることからきたそうだ。一年中葉を付けており、冬でも食べられる。天ぷらの材料がさびしいときなど、庭に葉を数枚ちぎりに行けば、いつでもそろう頼もしい材料のひとつになる。
春に咲くスミレの花をサラダにのせるとキレイだ。飾りだけでなく、ちゃんと食べられる。同じスミレ科で園芸種のパンジーには毒があるので、決して同じように食べてはダメです。
花や薬草で有名な伊吹山へ登りに行ったとき、下山したあとに山麓の施設で薬草風呂に入ったことがある。
絶大な疲労回復効果を実感して、市販されている薬草湯の浴剤など買い、自宅で薬草風呂を楽しんだことも。
ところが、その成分を調べてみるとヨモギが主体と書かれていた。ヨモギなら我が家の庭やそのへんの土手に雑草としてたくさん生えており、草刈り機で僕はよく刈っていた。これはもったいないことをしていた。ヨモギを煎じて風呂に入れてみると、その効果にニンマリである。
食の方ではヨモギを煮てペーストにし、ヨモギクッキーやヨモギのパンケーキなどをベニシアが作っている。
ナズナとハコベは春の七草だ。1月7日に七草粥を食べるのが日本の伝統行事と言われているが、お店に頼らず、自分で七草全てを見つけてくるのはかなり難しい。我が家では七草の材料がだいたい半分以上揃ったときに食べる料理のひとつとなっている。
植物は見て美しさを楽しむだけではない。食べられるものやお茶になるもの、生活の役に立つものだってある。
そういう植物の見方が身に付いてくると、自然の中を歩くとき、ついつい食べられそうな山野草や野生のハーブなどを探している自分がある。
葉や花をむしって匂ったり口に入れてみたり。ときには自然保護好きのような人に注意されることも…。僕は欲張りなのかもしれないなぁ。
筆者 梶山正プロフィール
かじやま・ただし
1959年生まれ。京都大原在住の写真家、フォトライター。妻はイギリス出身のハーブ研究家、ベニシア・スタンリー・スミス。主に山岳や自然に関する記事を雑誌や書籍に発表している。著書に「ポケット図鑑日本アルプスの高山植物(家の光協会)」山と高原地図「京都北山」など。山岳雑誌「岳人」に好評連載中。