『六浦千絵』の場合|三浦類の職場放浪記⑥

東京・日本橋にあるgungendoコレド室町店店長の六浦千絵(むつうら・ちえ)さんは三浦と同じ愛知県生まれ。最初は西荻窪Re:gendoで働き始め、大森の群言堂本店で1年間暮らしながら働いて現在に至る。昨年の取材時は表参道で会ったのだが、明らかに場違いな田舎者の三浦とは違い、六浦さんがとても都会の雰囲気に馴染んでいたのが印象的だった。お客様からも大人気のおめめぱっちりキュートシティガール六浦さんをどうぞよろしく。


六浦さんは1985年生まれの30歳。愛知県に生まれ、三重県津市を経て幼稚園から高校時代までを神奈川県茅ケ崎市で過ごした。高校時代は吹奏楽部でクラリネットを吹いた。

子どもの頃から要領よく立ち回るのが得意で、「根性はないが愛想はある」と自称するほどの愛想の良さを持ち合わせている。

青山学院大学仏文科に進学したタイミングで、家族とともに東京に引っ越した。

仏文科を選んだのはもともとヨーロッパの古い町並みが好きで、歴史あるものを大切にしながらも、新しい魅力を生み出し続けているヨーロッパの国々に惹かれていたからだ。特に興味のあったフランスのことが学べる同学科を選択した。

出身大学も近い表参道にて。愛嬌の良さがこの笑顔に集約されている(三浦所感)。

大学卒業後は企業広告制作などで知られる株式会社アマナで営業の職を得た。

そこでは撮影現場のお弁当の手配といった雑用的な仕事もあったが、おいしいおやつで休憩時の現場のテンションを上げるなど、ちょっとした工夫や気遣いを忘れずに仕事をスムーズに進める働き方を身につけることができた。

約3年楽しく働いたが、忙しさでどうしても生活が不規則になりがちで、ちゃんと朝起きて夜寝られる生活をするため、2011年1月、退社を決意した。

次は自分の手を動かす仕事がしたいと思い、料理学校、江上料理学院でフードコーディネーターと食育インストラクターの資格を取った。

その後求職中に西荻窪Re:gendoオープニングスタッフの求人をたまたま見つけた。

電話をかけるとすぐ来てほしいと言われ、トントン拍子に採用が決まった。古い建物が好きなので、Re:gendoの落ち着いた空間を一目で気に入ったのも決め手だった。

西荻窪のカフェRe:gendo(りげんどう)

希望通り手を動かす仕事を得られたが、すぐに想像とのギャップに戸惑うことになった。

実際に働いてみると厨房は体力だけでなく多角的な感覚を要求される仕事で、訓練を受けてきた同僚たちにはとうてい及ばないと気が付いたのだった。

そう感じた頃から、厨房よりもホールで素材の味を言葉で伝える仕事の方に楽しさを覚えるようになっていた。お客様の反応がダイレクトに感じられるのが何より楽しかった。

次第に、より五感を刺激しシズル感を伝えられる言葉を持つために、島根の本社・本店が見たいという思いが募った。

希望を伝えて念願の本社研修に行った終わりに、会長の松場大吉に「大森はどうだった?」と聞かれた。初めて大森に来た感動を伝えると、しばらく大森に来てみないかと誘われた。

厨房の仕事に限界を感じ始めてはいたが、ここで辞めては心残りになると感じていた矢先のことだったので、迷わず行くことを選択した。

群言堂石見銀山本店の中庭

大森では1年間の期限付きで群言堂本店で働くことになり、職場近くでのON/OFFのない暮らしや女子寮での共同生活など、環境をガラッと一新した大森暮らしが始まった。

ご近所付き合いや誰かの家へのお呼ばれなど、意外と気も使うし体力も必要だったが、どう好意や感謝を伝えられるかしっかり考えて行動するようになった。

慣れないことに戸惑いながらも、親しい大人が周りにいることがとても嬉しかった。

群言堂が大切にしている「復古創新」という考え方は大森に来てとてもすとんと腹に落ちた。古き良きものを大切にしながら、そこから新しい価値を見出していくというやり方はヨーロッパの町並みに感じていた魅力と同じものだった。

本店前の町並み

季節の移ろいにも敏感になり、人との距離が近くなった。「おかえり」と言ってもらえる第二のふるさとができたおかげで、東京に帰ってから住む町も、自分が暮らしていく場所として好きになっていきたいと思うようになった。

本店での仕事は入った当初は自信がなかったが、やっているうちに段々とメニューや仕組み、人員の回し方、お客様との関係づくりなどを考えるのが手を動かすことよりも自分に向いていることが分かってきた。

洋服部門も経験し、一年が経った2014年3月、日本橋のCOREDO室町3にオープンする店舗に配属され東京に戻ることとなった。

たったの一年ではあったが、愛着を感じ始めていた大森を離れるのは寂しく、つい一年前まで住んでいた東京の暮らしに順応できるか不安なほどだった。

しかし大森に暮らしたことで自分の生の経験を説得力をもって伝えられる自信がついた。どこにいても、シズル感を伝えることが一番楽しいことなのは変わりないと、東京で頑張る決心がついた。

gungendoコレド室町店店内

群言堂に入ってから、なぜか不思議な巡り合わせで会いたかった人に何人も会うことができた。

前職のアマナに勤めるきっかけにもなった憧れの写真家、藤井保さんや大好きなミュージシャンharuka nakamuraさんなど、自分の琴線に触れる人物がことごとく群言堂と繋がっていたのだ。

「縁あってここに入ったんだ」と実感した出来事だ。

群言堂に勤めて、そして大森に来たことで、一番自分らしい働き方に出会えた。そして今は「お母さんになる」という新しい目標もできた。

群言堂の先輩スタッフは皆母性に溢れていて、お店やスタッフのちょっとした変化に気を配れるお母さんのようだ。自分もお母さんの気持ちでお店を育てる存在になりたいと思う。

もっと、お客様とスタッフ両方にとって面白く楽しい場を作っていきたい。




<おわり>

inkan_miura.jpg
書き手:広報課 三浦

三浦編集長の大森ダイアリーの他の記事

石見銀山 群言堂