2009年、奇しくも二冊の本が同時に出版されることになりました。一冊は森まゆみさん著書の『起業は山間から』、もう一冊は『群言堂の根のある暮らし』、私の語り下ろしの著書です。
森まゆみさんに書いていただけるなんて身に余る光栄ですが、正直、これを出版していいものかどうかを本当に悩みました。
私の認識不足でしたが、森さんと雑談していた話がそのまま活字になるとは思ってもいなかったのです。ゲラ刷が届いた時、あまりにも無防備な、また、あからさまな内容に頭を抱えました。
森さんにどうしたものか相談をしたら、「おもしろい本になったと思うよ」との答え。そりゃ、他人様からはおもしろい話でも、身内となるといろいろ差し障りが…
しかし、森さんの「気取らない、飾らない、正直な本にしたいのです」の言葉に押されて「あるがままでゆくしかない」と覚悟を決めました。
タイトルの『起業は山間から』の「山間から」は植木枝盛[うえきえもり](思想家、板垣退助らと共に自由民権運動を起こす)の「自由は土佐の山間から」という歴史的な言葉から、自由な風も吹くいいタイトルだと、森さんが是非にとつけて下さったものです。
語り下ろしの『群言堂の根のある暮らし』には、「-しあわせな田舎石見銀山から-」というサブタイトルをつけました。
「こちらのご両親には、仕方なくもらっていただいた嫁だからよほど努力せんとねぇ」嫁いだ日の母の言葉は今も忘れられません。
非常識で無鉄砲な娘だった私は、どれほどまわりに心配をかけたことでしょう。また、嫁いだ日「草の種はたとえ落ちた所が岩の上であっても根を下ろさなければならない」という言葉を下さった方もありました。
思い返せばこの地に来てからは小さな奇跡の連続でした。そして今、正に私はこの地にしっかりと根をおろしはじめたことを実感しています。
石見の岩の上に落ちた小さな種が、どうやって自分の居場所を見つけていったのか、本の中から感じていただければ幸いです。