林:この本は社員の皆さんに向けてのバトンという意味合いが、やはり大きいと思います。
綺麗に整ってしまった言葉だけではなくて、生身の、リアルな人の歩みだからこそバトンが受け渡されて行く実感があるように思います。
これからの群言堂を引き継いで行くお一人である松場忠さんと、よくそんな話をしていました。
菅:登美さんでさえ知らない内容があったって最後に書かれていて、そうだったのかと思いました。
林:この本を社員の方がどういう思いで読まれるのかも楽しみなんですよね。
忠さんが、社員数も増えて、大吉さんと登美さんがちょっと遠い人みたいな存在になりつつあるので、そこをグッと自分に引き寄せるためにもこの本は必要なんですっておっしゃってました。
菅:きっと引き寄せられますよね。楽しみです。
林:大吉さんの紆余曲折を読んで社員の方々が「これは自分達も頑張らないと」って思うかもしれないですね。
大吉さんに任せっぱなしだと危ない!とか(笑)。それで群言堂が、よりパワフルになっていくかもしれないですね。
菅:それが大吉さんの作戦だったらすごいですね(笑)。
でも実際、本人は読まれることに関して結構ドキドキされていることを感じます。私、大変なものを作ってしまったみたいな気持ちもあるんですよ。
でも客観的に読んでもめちゃめちゃ面白いよね。
林:そうですね。藤井さんはまた独自の感想を持たれていました。
松場ご夫妻とのお付き合いも長くて、大吉物語的な部分はもうご存知なので、「石見銀山で、商売と文化的なものの両輪でどうバランスを取りながら生きてきたのかをもっと聞いてみたい」とおっしゃっていました。
そのあたりは本の後半に出てくるのですが、そこをもっと膨らませてはどうかと。
最終的には、佐藤や菅さんとも話をしていく中で、そういう部分と生身の部分とが半々ぐらいがいいんじゃないかということに落ち着きました。
今回の本は、藤井さんが撮影を始められた所からスタートしているので、藤井さんの思いや考えも大事にしたいと感じていました。
ですので、藤井さんにも大吉さんの文章を初稿の段階から読んで頂いて感想を伺ったりと、いろいろなことを相談していましたね。
菅:本当に大変なことでしたね。佐藤さんと藤井さんがいらして、私がいて、大吉さんの思いがあって、群言堂側の意見もあって……。
林:そうですね。少し気疲れしたかもしれません(笑)。
菅:普通の本は、著者とのやりとりだけで、そこまでたくさんの人の意見を聞かなくても、できることが多いんですけれど。
林:そうですね。
菅:それに林さんは、企画から始まり、デザインもして、編集もして、ほとんど全部なさったんですから、どれだけ大変だったか。
林:編集と言えるところまでは、できていないかもしれないですけれど。
今回は編集者の方を入れずに、自分たちでやれることは全てやってみようという気持ちでいました。
やっぱり群言堂さんだからなのか、それぞれの皆さんの思いが強いので、その重みを大事にしたかったのです。
素材だけ頂いてあとは佐藤と私だけで「こういう本でどうでしょう」というようなやり方は、今回はあり得ないなと思っていました。
細かなことも皆さんに逐一お伺いを立てながら進めました。その分大変だったのですけれど、それで道が自然と見極められたので、良かったんですよ。