「復古創新」という言葉を教えてくれたのは、私の最年長のボーイフレンド。
天国の人となる92歳までの五年にわたるお付き合いだった。
20年ほど前、私のことが小さな新聞記事となって
紹介されたことが出会いのきっかけだった。
「新聞読みました あなたと私は気が合いそう ぜひお友達になりましょう」
突然のラブコールに一瞬とまどったが、
短い電話での会話の中にも何かしら心惹かれるものを感じたが、この直感は正しかった。
富士通の取締役をしたのち、広島工大の名誉教授までなさったその人は、
化学者でありながら芸術家でもあった。
液晶の研究をしつつ一方ではコンピューターグラフィックスのデザインもする。
「先生は化学者ですか芸術家ですかと聞く奴がいるが、わしゃ人間じゃと答えてやる」
やんちゃでおちゃめな人で型にはまらない、興味の尽きない人だった。
聞けば当時御歳87歳、不倫に落ちる心配もない。
安心してお付き合いができると、
初デートは広島のホテルのレストランで落ち合い、
瀬戸内海でクルージングを楽しんだ。
クルーザーのデッキでワインを傾けながら、
サムエル・ウルマンの「青春」について熱く語り合った。
正に87歳にして青年だった。
杖に頼りよぼよぼ歩く姿、仙人のような髭をたくわえた風貌の
外見からは想像もつかない程の若い感性に私の胸はときめいた。
お付き合いも深まったある日、
自筆の「復古創新」の文字を焼いた陶板をプレゼントして下さった。
今となっては大切な形見である。
孔子の「温故知新」にも匹敵する名言である。
ただ当時の私はこの言葉の意味を深く理解するには若すぎたが、
最近ある方から教えていただいた
「革新の連続の結果が伝統であり、革新継続の心は伝統より重い」
という精神に復古創新の解釈がまた進化した。
現代文化の創造や未来文化への挑戦こそ「復古創新」の神髄であると。
因みに今も大吉っあん公認のボーイフレンドは星の数ほどいるけど、私にとって全く人畜無害。
これって私が女性としての魅力ゼロという証拠なの?
登美