梅の花の酵母菌

我社の房 薇(ファン・ウェイ)が石見銀山の梅の花から
酵母菌を発見したのは2009年のことだった。
彼女は島根大学農学部に留学して博士号を取得している。
県の試験場に持ち込んで調べてもらったところ、現在天然酵母の筆頭にあげられる
白神山地のこだま酵母菌に匹敵する優秀なものと判明した。

大吉っあんはこの幸運を「宝くじに当たったようなもの」と比喩して言うが、
男はロマン、女は現実。
初めは、「同じ幸運に恵まれるなら、そりゃ宝くじに当たった方が…」
と思わないでもなかったが、
今は無尽蔵な可能性を秘めた天からの授かりものに感謝して夢は広がる。

そもそも日本人の暮らしは衣食住すべて発酵文化に支えられてきた。
植物の藍を発酵させてそめる藍染。
酒、醤油、味噌など発酵食品は、枚挙にいとまが無い。
民家の土壁も藁や麻を土にまぜ、寝かせて発酵して使う。
発酵文化は目に見えない微生物が
自然に働きかけて醸し出す不思議な世界である。
とかく私達は目に見えるモノやコトは信じやすく、
見えることで、評価、判断することが多いが、
今回の発見で、実は目に見えないモノ、コトこそ、
重要な働きをしていることに気付かされた。

私の育児方針は純粋培養はダメ、雑菌もアリの中で育てる ―― だった。
おかげで娘達はアレルギーもなく、いろんな意味でたくましく成長した。
今、話題の「寺田本家」の当主、寺田啓佐氏の著書『発酵道』にこんな件がある。

「違ったものを排除することで、うまくいくことなどないというのも、
酒造りのなかで気づいたことだった。
多種多様な微生物が参加することによって、
生命力のある、命の宿った酒ができる。
雑菌を排除しながら、純粋な菌だけを培養して造られた酒というのは、
生命力のない、ただ酒のようなものができただけの話なのだ。
本当の酒でないと言い切ってもいい。
微生物たちが教えてくれたのは、排除してうまくいったつもりでも、
実はうまくいっていないことだ。
仲よくして、初めてうまくいくようになっているのが、自然界の仕組みなのだ。
それぞれが自分らしく生きて、
争いのない楽しい幸福な社会を作ろうとするならば、
微生物をお手本にするべきなのだ。」

私の育児方針は間違っていなかったと確信した。
大吉っあんは近頃お酒が入ると、

「金、銀、銅にかけて、菌を発見。銀の町からどうだ!!」

なんて、オヤジギャグを連発している。
我々も微生物のように発酵した人生を送りたいものである。

登美

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