一冊の本との出会いから大きく影響を受けることがある。
ターシャーテューダーの本との出会いは正にそれだった。
九年も前のことだろうか、旅先は山梨県の山中で見つけた絵本作家のアトリエ兼書店。
小さな山小屋風の建物には、立派な髭の真っ白い山羊が番をしていた。
入口近くのアンティークの椅子に立て掛けられた一冊の本、それがターシャーの本だった。
何気に手に取り開いた途端、全身に電流が流れるほどの衝撃を覚えた。「日本のターシャーテューダーになりたい。」
あれ以来、私の暮らしはアメリカのバーモント州で暮らすターシャーの暮らしぶりに大きく影響されることとなる。
もちろん、そのまま真似るのではなく、あのライフスタイルを日本に、
いや石見に置き換えてみるのだ。薪小屋を作る。小川でクレソンを育てる。
だるまストーブで暖をとる。私のライフスタイルは確実にターシャー風になりつつある。
ふと気が付くとなにやら感じ方まで似てきたような気がしないでもない。
「山陰の冬は暗く寂しい。鉛色したあの冬の日本海を見ただけで、
絶望的な気分になってしまう。そんな時は、やがて来る春に想いをめぐらし、厳しい冬を耐えるのだ。
このことは辛い時、必ず明るい未来が来ることを信じる力になった。」登美
「バーモントの冬は厳しく長いので忍耐が必要です。
でも、この忍耐の先にはいっせいに花開く輝きの季節が待っているの。
冬の間、私はいつもそのことを考えているわ。
辛い時こそ想像力を枯らさないで。」ターシャーテューダー
「最近は新聞もテレビも暗いニュースばかりで見るのが辛くなる。
でも、私の周辺では、心温まる話や世の中捨てたものじゃないと思わせてくれる話題が
結構あったりして、ささやかな幸せはいくらでも見つけられるものだと思う。」登美
「世間を騒がすような嫌な事件は、いつの時代にもありました。
そのようなケースは、ほんとうは少数なのよ。まともな生き方は、ニュースにならないけれど、
そちらのほうが大多数であることを、信じましょうよ。」ターシャーテューダー
「仕事に励み、計画していたことを遂行し、失望せず、人生の目標を達成する強い意志を持ち、
優しく、忍耐強く、感動でき、 ユーモアのセンスがあり、好奇心もあるーーー
こうした資質が全部備わっていても、人生に満足できなかったり、不幸せだと思ったりする人もいれば、
こうした 資質を追求していないのに素晴らしい人生を送る人もいるのだから、人生は神秘ですね。」
ターシャーテューダー
この言葉には「う~ん」と唸らされた。
2008年6月18日、92歳でその生涯を閉じたターシャー。
90歳を超えるほど生きれば、これほどのことをさらりと言ってのけるようになれるのだろうか。
まだ大丈夫、私には30年以上はあるのだから。
「登美さんや、あなた幾つまで生きるつもりかい?
まぁ憎まれもの世にはばかると言うからねぇ。」
「なに言ってんのよ美人薄命って言うじゃない、ちょっとは心配してよ。」
相変わらず減らず口をたたいている。
ご冥福を祈りつつ想うことでした。
登美