暮らしの中の豊かさ

他郷阿部家の薪ストーブ

近頃、日常の暮らしを大切にしたいという思いが強くなりました。

出張で飛びまわり月々のスケジュール表がびっしり詰まっていることに
充実感を感じていた頃もありましたが、
今は阿部家という家を通じて日常を丁寧に暮らすことに
喜びや楽しさを感じています。
祖父や母が伝えてくれた大切なモノ・コトを
一つ一つ思い出し拾い集めていると
物を買い集めることに夢中になっていた頃 より、
ずっと豊かな気分になれます。

高度成長期、バブル期を経験してきて何が大切なのかが、
やっと今見えてきたような気がします。
日常の暮らしを大切にすることは、
人生を楽しむことにつながっているような気がします。

デザインにゆきづまると、私は庭の草むしりをします。
ひたすら手を動かすことで焦りがなくなり、気持ちが落ち着いてゆくのを感じます。
仕事で先が見えなく なった時、徹底的に掃除をします。
畳に向かって黙々と雑巾がけをしているうちに不安が遠のいてゆくのを感じます。
又、気分が落ち着かないイライラした時は、
豚の角煮や煮豆をコトコト時間をかけて作ります。
食卓に料理が並ぶ頃には、自分を取り戻しています。

坦々とした無心の心境に近づくほど単純作業は、
精神的な落ち着きと、充実感を与えてくれます。
忙しさにかまけていた頃には、苦痛さえ感じていた作業が、
今では無意識のうちに固くなっていた精神を解きほぐし
人間性を回復させてくれるのを感じます。
そして、日々を重視すればするほど、
生活の道具や空間にも気を 配るようになりました。
阿部家を通して、私なりの暮らし方をデザインしながら、
仕事に生かしてゆきたいと考えています。


登美

(2005 盛夏展示会 案内状より 2005年1月25日)

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