「犬馬難 鬼魅易」

日常の道具が吊るされた他郷阿部家の土蔵の壁

「犬馬難 鬼魅易」(ケンバムツカシ キミヤスシ)
一ヶ月ほど前のことです。
アレックス・カーという東洋文化研究者の書いたものを読む機会がありました。
その中で犬馬難鬼魅易という表現を知り、それ以来こ の言葉が頭から離れなくなりました。
どういう意味かというと、昔、中国の皇帝が宮中の絵描きに
何が描き難くて何が描き易いかと聞いたところ
「犬や馬は描き 難く、鬼は描き易い」と答えたそうです。
つまり犬や馬のように自分の周りにいるものは描き難くくて、
グロテスクなバケモノは描き易いということなのです。

白州正子さんは「椿一輪を活けることはなかなかできないことですが、
モンスターのような花は簡単に活けられる」とおっしゃったそうです。
モンスターのような建築や造作物が世の中に増えてきたのは、
たやすいことにはしる現代の象徴かもしれません。
また身近にあるものを軽んじてその価値に気づかず、
よそにこそ価値あるものがあるんではないかと思いがちなのも
犬馬難しに通じるのかもしれません。

静かで 聞こえにくいもの、小さくて見えにくいものに
耳を貸し目をやる努力をしてみようと思います。
大切なものが見え、真実が聞こえてくるような気がします。
とに かく商売というものは、大きな声でモノを言い、目をひくものが力を持つ世界。
それに反する生き方がどこまで通用するやら、一つの挑戦です。

春は物事の真偽善悪を見分ける力を持つメガネ、名付けて「眼力めがね」のデザインでしたが、
この秋は暖かく、ほのぼのとした灯りで一隅を照らす照明「犬馬の灯」をデザインしてみました。
つつましい中にも品位を感じられる暮らしが理想です。

まさに、犬馬難しの境地です。

                               登美

(2004.5 秋展示会案内状より 2004年5月25日)

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