石見銀山を観光する
ほんとうの魅力は
人々の暮らしにある。
石見銀山のある町・島根県大森町に移住後、自然農で畑をしながらデザイン業をおこない、朝は畑で採れたての野菜や鶏のたまごを宿に持っていきお客さんに食べてもらう。自然の一部として森と共生し、また生業をとおして循環する暮らし方を提案しているのが鈴木良拓(すずき・よしひろ)さんだ。
現代の百姓とも呼ばれる彼を形づくる根幹には、「SUZUKI FARMS ちいさな森のような畑」がある。自然の恵みの一部を借りて暮らしていくこと。それは、石見銀山に受け継がれてきた文化であるからこそ、彼の暮らし方は見逃せない。
石見銀山を観光するときには、循環する暮らしの根幹にある「SUZUKI FARMS」をぜひ訪ねてみていただきたい。
取材・文・撮影:小松﨑拓郎
- 鈴木良拓
- 株式会社石見銀山生活文化研究所への入社を機に石見銀山のある町・大森町に移住。ちいさな森のような畑 - SUZUKI FARMSの代表。宿・デザイン・農業に従事。生業をとおして循環する暮らし方を提案している。
循環する暮らしの根幹。
ちいさな森のような畑を訪問
ちいさな森のような畑とは
多様な植物が共生する「小さな森のような畑」SUZUKI FARMSでは、セリ科のニンジンやキク科のレタス、アブラナ科のキャベツなど約60種類ほどの作物を混生させ畑の中に森のような生態系をつくることで、化学肥料や農薬に頼らず、おいしくて健康な野菜を育てている。
見どころは畑の生物多様性
SUZUKI FARMSの見どころは、畑の生物多様性だ。畑を始めて二度目の冬に、畝の上に草をたくさん敷き詰めて、パクチーや水菜、ルッコラ、レタス、チコリー、ウルティーノなど、およそ60種の野菜の種をまいた。
わずか2m程度離れた畑に余った油菜の種だけをまいてみたら、よく発芽したが、単一の野菜畑は虫に食べられてなくなってしまった。いっぽうで、60種の植物を混生させた畑は、虫もつかずによく育ったという。
「60種まいたところは虫がつかずにキャベツ同士でちいさな生態系ができたなって感じたんですよ。自分が目指す畑ってこういう姿なのかもしれないという実感を持って。
より野菜の種類も増やしていきたいし、生態系になる環境を整えていきながら、最終的には手入れしなくても野菜が次々と収穫できて、いつ訪ねても野菜が育っている、森のように自然と野菜が育っていく状態を目指しています。目指す姿は食べられる森。その環境をつくる手伝いをしてる感覚ですね」
「ちいさな森のような畑」をつくる理由
それにしても、鈴木さんは、なぜ森のような畑をつくろうと思ったのだろう。尋ねてみると、『木を植えよ!』という本を読んだことがきっかけだと鈴木さんは言う。
「私が好きな植物生態学者の宮脇昭さんという方が『木を植えよ!』という著書のなかで『森には木(植物)がたくさんある。高木、亜高木、低木、下草、そして土の中のカビやバクテリア、ダニ、ミミズまでいろいろな生き物が限られた空間の中で競り合いながらも互いに我慢し、共生している。このような多層群落こそ本来の自然の森の姿である』と仰っているんですね。
つまりたくさんの生き物がせめぎ合っている状態が本来の自然なんだということを著書を通して読んで、頭にどこかに残っていて、石見銀山の環境を生かした畑をつくろうと思ったときに森をお手本にしようと思ったんです。畑という限られた場所で森を体現していくことになるので、ちいさな森のような畑という名前をつけました」
原点は福島の会津の森
お話を伺うなかで次なる疑問が湧いてきた。本を読み、アクションするほど鈴木さんに響いたのはどうしてだろう?と。
原点は生まれ育った福島の会津の森にあると鈴木さんは語る。
「森を参考にしたいと思ったのは、幼少期に天然林の森で過ごした体験があるからだと思います。私が育った福島の会津は天然林のブナや白樺が林立していて、近くにはツキノワグマがウロウロしているような環境だったんですね。山を歩くと、よくクマの引っかき傷があったりするような(笑)。いまは少なくなっている本来の森の姿を幼少期にずっと見てきたので、自分が食べものをつくるときにはできるかぎり自然を壊さないようにしたいと思っています」