備後絣とLaboの出会い
広島県福山市に、1つ1つの作業を手作業で行い生地を作っている小さな町工場があります。備後絣で栄えたこの地域には、染めから織りまで一貫して手作業で行う文化が残っているのです。モノづくりのサイクルが早くなり、現場の効率化が求められる今、手間のかかる旧式のシャトル織機を使い、糸の染めから糊付け・整経までを全て1つの工場の中で行う機屋は日本中探しても数件だけではないでしょうか。
そんな丁寧なモノづくりを受け継ぎ、続けている職人がいます。「この職人さんと一緒にモノづくりがしたい!」そんな想いを持ってLaboの生地作りがはじまりました。
使い込まれたアンティークの生地をヒントに
デザイナーの岩田が持っていた西洋のアンティークのシーツ素材。リネンとコットンで織られたその生地のハギレは、旧式のシャトル織機で織られた素朴さと、何度も洗濯されてくたくたになった優しい風合いがありました。「毎日着たくなるような、こんな生地が作ってみたいね」そんな想いを、職人にぶつけてみました。
はじまりは野良着から
私達のオリジナル素材を作ってもらっている福山市新市町一帯は、備後絣という絣織物の一大産地のひとつ。九州の久留米絣、愛媛県松山市の伊予絣とともに日本三大絣と呼ばれているそうです。江戸時代に福山市で生まれ、明治から戦後にかけて盛んに織られた備後絣は、ハレの日のための着物ではなく、女性の野良仕事のための野良着として使われてきたそうです。
備後絣の作業場などに赴き、職人の話を聞いている中で、「日々の暮らしに馴染む布」そこに原点を持つ備後産地の布は、私達の目指す素材作りにぴったりだと感じました。
着ていて馴染んでいく服を
「こんな味のある生地が作りたいんです」アンティークのシーツを持って、熱い想いで相談してみる私たち。しかし一度は断られてしまいました。理由を聞いてみると、麻100%の糸は織機に掛ける前の糊付けや整経(たて糸の準備)が難しく綿100%しか織ったことがない備後産地では不向きだとのことでした。
綿100%の素材も魅力的ではあるのですが今回目指したかったのは「暮らしに馴染んでいく服」リネンが入ることで使い込んでいくと柔らかい風合いが出て、体にもなじんでいく。
ヒントも貰ったアンティークのシーツを思い浮かべ、「やはり麻を使ってみたい」と無理を承知でもう一度お願いしてみました。「綿と麻が半分づつ混ざった糸なら出来るかもしれんの~。」少し前向きなお返事に、うれしくなり「ぜひお願いします」と即答でお願いしました。普段していないことにチャレンジするというのは、効率も悪く大変だとは思うのですが
「しょうがないのぉ、やってみるけぇ」と言って作ってくださる、この職人。その素朴で温かい人柄が大好きで、これからも一緒に仕事をしていきたいと思っています。
この工場で使っている道具は昔のまま、旧式のシャトル織機などの古い機械が現役で使われています。糸の精錬(糊やゴミを取り除く)、インディゴや柿渋での糸染め、整経(たて糸の準備)織りに関わる作業を一貫してこなす工場は、ほとんどが職人の手作業によって進められます。
非効率から生まれる気持ちよい風合い
現代の高速織機は1日に3反以上織ることができますが、この旧式のシャトル織機は織る速度が非常にゆっくりなため、1日に1反の半分しか織ることができないそうです。
一見非効率に思われがちですが、糸に強いテンションをかけて高速で織っていく高速織機に比べ、シャトル織機で織られた布は糸に負担をかけないため、空気を織り込んだような
素朴で優しい風合いに仕上がります。織り上がった生地を触ってみると高速織機で織られた生地にはない、自然な凹凸感と、素朴な風合い、少しの張りがあり目指していた気持ちよい風合いの生地が完成しました。
ストライプの糸にはインディゴ染めの糸が使われています。
伝えたい手の仕事
丁寧に時間をかけて織られた「シャトルシリーズ」の生地を使った服には、このシャトル札が付きます。手に持っているのは、緯糸を飛ばすためのシャトル。バトンのようにも見えます。決して効率的ではないモノづくり。手間や時間のかかる布。このシャトル織機の布をもっと多くの人に知ってほしい。備後絣に馴染みのない若い世代の人たちにもこのシャトルの生地を通して、手の仕事を感じてもらいたいと思っています。
毎日着て、毎日洗濯し、日々のくらしに馴染んでいくシャトルシリーズのアイテムはこちらから