2017年 6月
古橋織布の作る「綿スラブローン」に出会ってから、早20数年。以来、毎年生地を採用し続けてきたのが松場登美です。
「やっぱり、大好き」「心地がよい」と笑顔いっぱいに語る理由は、一体どこにあるのでしょう?
2017年 6月
古橋織布の作る「綿スラブローン」に出会ってから、早20数年。以来、毎年生地を採用し続けてきたのが松場登美です。
「やっぱり、大好き」「心地がよい」と笑顔いっぱいに語る理由は、一体どこにあるのでしょう?
「理屈ではなくってね。やっぱり肌はとても正直。触れた瞬間、心と体のどちらもが心地よいと感じるんです。
古橋織布の生地に限らないけれど、人間も自然の一部ですから。天然素材の、風合いの良い生地が心地よいと感じるのは当然ではないでしょうか?」
登美は、料理と同じように洋服も素材ありきだと語ります。どんな料理だって、旬の素材を上手く使ってシンプルに調理するのが最高の贅沢。
古橋織布の生地は素材がいいから、過度なデザインを施す必要がない。20数年間、毎年作り続けてきた服の中でも、今回の復刻版に選んだ3種の柄は登美がいたく気に入っているシンプルな柄なのだといいます。
登美は綿スラブローンが大好きです
「仕事柄、クローゼットには服がずらりとたくさん並んでいます。でも、いつも手が自然に伸びてしまうのは体が喜ぶ服。
着やすくて肌にやさしい古橋織布の綿スラブローンは、10年以上前のラインでも今も現役。素材も作りもよいから、へたることなく洗うたび風合いは増すばかりです。
店頭で、実際に触れた瞬間惚れ込んでくださるお客さまがいることもありがたいけれど、なんとなく気持ちがいいと買ってくださった方が、10年後に『この服すごいね』と気が付いてくださったときが、じつはとてもうれしいんです(笑)」
シャトル織機と織物に手をかける古橋さん
風合いのよさだけではなく、登美は古橋織布のモノ作りへの姿勢にも惚れ込んでいます。理由は、群言堂がモノ作りの中心に据えている「復古創新」の精神と、古橋織布のモノ作りへのこだわりにたくさんの共通点があるから。
「モノを作っていると、モノとしては形があって目に見えるんでしょうけれど。そこに託された想いだとか、人柄だとか。そういったものは目には見えないけれど、感じることはできると私は信じています。
それがあって初めてモノとしての満足度が満たされるというか。古橋織布をはじめ、私が惚れ込んでいるモノたちにはすべてそれがあるような気がします。モノだけではないというかね」。
登美は、続けて群言堂の「復古創新」のテーマに込めた想いを語ります。
「群言堂と古橋織布の一番の共通点は、非効率の中に美しさや大切なことを見出していることだと思います。
経済や効率化を優先すると、質が落ちてしまったり、量産型になったり、手間暇をかけなくなってしまったりします。それが本当にいいことなのかどうかって、考えてしまいますよね。
みなさんがご存知のとおり、日本の伝統や技術は日々失われつつあります。でも、モノを残さないと技術も残らないし、職人さんも育てることができません。群言堂やブランド『登美』はその流れに抗う一筋の希望でもありたいと思っています」
近代化に向かう時代の中で、群言堂と同じく、ていねいにかつ実直にモノ作りを続けてきた古橋織布。20数年を経て「互いに年をとったわね」と笑いながら、「私たち、かなり非効率なことを真面目にやってきたと思う」と見つめ合う姿には、取材陣もぐっと心を打たれた気持ちになりました。
群言堂は「モノ作り応援団」という言葉をよく用います。けれど、登美は「もしかしたら応援しているつもりが、私たちも応援されている立場にあるのかも」ともこぼします。
それは、群言堂が古橋織布のような織屋に継続発注をしてモノ作りを応援しているつもりでも、じつは古橋織布のように生地を作ってくださる方がいるからこそ、群言堂が存在し続けられているという図式に気が付いているから。
「この両方の関係が、私はとても好き。応援団同士で、エールを送り合いながらモノ作りや想いを次世代に継いでいけるといいなと思っています」
時代が変わっていく中で、非効率なことの中に美しさや大切なものを見出した2つの会社。唯一無二の個性同士がタッグを組んで、20年以上に渡って作り続けてきた綿スラブローンだからこそ、多くの方に愛されるのかもしれません。
次回は、古橋織布のこれからをお伝えします。
伊佐 知美
1986年、新潟県出身。「登美」ブランドで起用されている「マンガン絣」の産地・見附市が実家。これからの暮らしを考えるウェブメディア『灯台もと暮らし』編集長・フォトグラファーとして、日本全国、世界中を旅しながら取材・執筆活動をしている。著書に『移住女子』(新潮社)。
タクロコマ(小松崎拓郎)
1991年生まれ、茨城県龍ヶ崎市出身の編集者/カメラマン。これからの暮らしを考えるウェブメディア『灯台もと暮らし』編集部所属。
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